番外編:それぞれの中間試験-浦浜和司の場合


「中間試験1週間前の攻撃」の頃の和司の話。



 中間試験まで残り一週間という時の事だった。和司は自室で机に向かい、教科書を開いている。和司が勉強で苦労しないのは天性のもの、だけではない。本人は飄々と軽く斜に構えているが、人なりの努力はしていた。それに、元々追及したくなる性格なのもあるだろう。

 中学校1年生の時に友人達と巻き込まれたあの出来事を経ても、和司は和司だった。

 にゃー

 机に向かう和司の足元に、薄い金色の毛に紫とヘーゼル色のオッドアイを持つ猫がすり寄る。それに和司は軽くため息を着いた。
「カム、後一時間待ってくれ。僕はこの科目だけ終わらせたいんだ」
 カムと呼ばれた猫はひらり、と身軽に机の上に飛び乗り、ゴロゴロと喉を鳴らせた。
「別に見てても面白くないぞ?僕には意味があっても、お前には無いだろ」

 そう言いながらも和司は左手で猫の背を撫でた。よく見れば、カムは暖かい西日が降り注ぐ机の角にいる。ゴロゴロ、と気持ち良さそうに目を細めるカムに軽く息をついてから、和司はシャーペンを握った。

 しばらくの時間が経ち、辺りが夕闇に沈む頃。和司の机の上でまったりとうたたねを楽しんでいたカムは、ぶるり、と体を震わせて目覚めた。
 和司の卓上の蛍光灯の明かりで、カムの瞳孔は細くなる。それまで勉強に集中していた和司は、ゆっくりとシャーペンを置いた。
「お前寝すぎ。僕はさっき言ってた教科の他にもう1つ終わらせたけど」

 にー

 カムは窓の外の夕闇を見つめた。いや、もしかしたら、窓に写った自分を見ていたのかもしれない。カムが理解していたかどうかはさておいて。
「今から外に行くのか? 僕は行かないぞ」
 窓の外を見つめるカムに、和司はなげやりに答えた。そして、手近にあったパズル雑誌を手に持ち、椅子の背に寄りかかった。手には、またシャーペンが握られている。
「カム、ご飯までの時間なら相手してやるよ。ただし、外はなしな」

 パズル雑誌の問題に目を通しながら和司は飼い猫に声をかけた。その意味を理解したのかどうかは定かではないが、カムはひらり、と和司の膝の上に飛び乗る。

 にゃー

「お前が静かだったから勉強がはかどったよ」
 喉の下を撫でながら、和司は呟いた。

 にゃおん

「このペースなら問題なく進むだろ。大丈夫だ」

 そのまま、体を起こすと、和司はパズル雑誌を机の端に置いた。その代りに、今度は社会の教科書とノートを目の前に置く。
「もう少しやるか」
 祖母が夕食に呼ぶまで、和司は勉強を続けた。カムを膝に乗せ、その重みを感じながら。



2013.5.10 掲載