番外編:それぞれの中間試験-小暮優気の場合


「中間試験1週間前の攻撃」の頃の優気の話。



 なぜ自分は今、机に突っ伏して眠る星野藤太と図書館にいるのだろうか、と優気は疑問を感じた。一緒に勉強をしようと言いだしたのは星野の方なのに、その当人が突っ伏して眠りこけるとは……どういう了見だ、と問い詰めたい。優気は軽くため息をつきながら、事の顛末を思い出した。


 明日からテスト週間で部活動が休みになるという最後の練習の後、帰り道を共に歩いていた部活仲間とテスト勉強の話になった。その話になったこと自体には、優気は疑問を持っていない。これはごくごく自然な流れだろう。ただ、そこで零した言葉が発端だったんだろうな、と優気は後から分析する。その言葉は「俺、1人で勉強しても捗らないんだよなぁ」だったと優気は記憶していた。

「なあ小暮、それなら一緒に勉強しねえ?」
 1人では勉強がはかどらないなら共に勉強しようという事か、と優気は内心考える。ありがたい申し出ではあるが、1つ問題があるとすれば。
「星野と?」
「ああ、俺んちは妹が3人居るんだけどさ……勉強するのになかなか集中出来なくて」
「星野、妹がいるのか!最近は妹萌えってあるけど、ねぇの?」
「冨田……」
 もう1人の部活仲間である冨田信二が口をはさんだ。信二の強引なところが苦手な優気は小さく息をつく。決して悪いやつではないのは理解しているのだが。

「自分の妹だぞ?「藤兄と会話したくない」って紙切れ渡してくる中2と「藤兄は雪姉に嫌われてるねー」って茶化してくる小6の双子と……」
「最高なシチュエーションじゃねーか、なあ、小暮」
「いや、俺にはよく分かんねぇよ」
 冨田に茶々を入れられながらも話は進む。信二には姉がいるらしく、「姉さんの方が萌えるだろうが!」と藤太は反論した。優気は一人っ子のため、妹や姉の良さも悪さも分からない。口は災いの元である、という事を某クラスメートを見る事でばっちり把握していた優気は懸命にも口を閉じていた。

「だから、一緒に図書館に篭ろうぜ」
「図書館で勉強、だよな?」
「そんな妹達と居るのは辛いんだ。察してくれ」
 想像するだけで十分辛そうな声に、優気の心も揺れた。
「俺も混ざりたい!なあ、いいか?」
「いいけど……俺、教えるなんてこと出来ないからな」
「小暮、お前は国語が得意だよな!俺は数学が得意だ!そして冨田は英語が冴えてる。な、ちょうどいいだろ?」
「丁度いい、丁度いい!な、小暮」
「わ、分かったよ……学校の図書室でいいんだろ?」
 勢いに押されて強引に。どうせ共に勉強するのなら和司と勉強したかった、と内心思うものの、あまり頼ってばかりではいけないだろうと優気は心を入れ替えた。
「おう、明日から早速やろうぜ」
「だな!」


 そこで同意をしてしまったのが運の尽き、だったのだろうか。優気は回想から現実に思考を戻す。信二からは少し遅れるという連絡が先ほど入ったばかりで、藤太は到着するとすぐに爆睡体制だ。
「俺、何やってるんだろうなあ……」
 小さくぼやきながらも、せっかくの機会だ。信二を質問責めにしてやろうと英語のプリントに印刷されている問題に向き直ったのだった。



2014.5.25 掲載