気の合う仲間とクリスマスパーティ



 終業式を終えた午後。学校から帰宅してお昼ご飯を食べた後、前に一度だけ行ったことのあるサヤの家に向かう為に、私は電車に乗った。小暮くんの所でやるって案も出たんだけど、神社でクリスマスは……って事になった。後から小暮くんに聞いたんだけど、25日は神社で何かイベントをやるらしいく、翌日である26日は片付けの最中になるんだとか。
『だから、うちが広くて良いかなとは思ったんだけど、無理なんだよ』
 ごめんな、って言ってた小暮くんはやっぱりいい奴だよね、って思ったんだ。

 からっ風が吹くと、一気に寒くなる。思わず、肩をすくめながら少し足早になった。
 前回……ゴールデンウィークにサヤの家に行った時とは、状況も手に持った荷物の量も違う。兄ちゃんには『気の合う「いつもの仲間」ってのは持ってて損はないぞ』って言われてそんなもんなのかな、って思うことにした。
 こんなこと考えてるって知られたら、また『お前、そのしち面倒臭い思考回路、なんとかしろ』って言われるんだ。兄ちゃんのくせに。

 たどり着いたサヤの家のベルを鳴らす。それに直ぐ『はーい』って声が聞こえた。……女の人の声だけど、サヤじゃない。
「すみません、サヤ……紗弥香さんいますか?佐々木梨花です」
『あ、紗弥香の友達?ちょっとまってね』
 恐る恐る問えば、その人は軽く言い置いてから大きな声で『紗弥香〜!佐々木さーん!』と呼ぶ声が聞こえる。その他にも『智也、それ任せた』『拓也、待てよ!』って男の子の声とドタバタしてる音が聞こえる。……賑やかだな。
 そう思ってたら、玄関の扉ががちゃりと開いた。
「ごめんごめん、丁度浦浜が来たところでさ」
「大丈夫?」
「うん。寧ろうるさいでしょ?」
 中に入れてもらいながら聞かれて、私は首を横に振る。むしろ、少し羨ましいな、って思ったぐらい。

「全然平気だよ」
「いらっしゃい。あなたが梨花ちゃんね」
 インターホンで答えてくれたお姉さん?が受話器を置きながらリビング、なのかな……から顔を出した。
「お邪魔します。あ、これ、母さんからです」
 友達のところでクリスマスパーティだって言ったら、チョコパイを持たせてくれた。兄弟がいるって言ったから、多めに。サヤに渡しても良いんだけど、2階に上がっちゃったらまた二度手間になるかな……って思ったから、ここでお姉さんに渡しちゃう事にした。
「あら、ありがとう。後でおやつとして出すわね」
「お姉、浦浜が持ってきてくれたクッキーも!」
「わかってるわよー」

 笑った顔はサヤに似てるお姉さんはそのままリビングの中に消えていく。サヤの後に続いて階段を登ろうとしたら「紗弥姉のお友達さん、発見!」って声が聞こえた。
「オレは拓也です」
「あ、こら、抜け駆けするなよ!ボクは智也です」
「「よろしくお願いしまーす」」
「あんたたちは下でゲームしてなさいよ!」
 そっくりな顔の2人にサヤは声を少し張り上げた。多分、弟たち。……双子だったんだ。
 一瞬、他の双子の兄弟を持つ奴を思い浮かべたけど、すぐに思考の中から追い出した。今はその事を考えてる場合じゃない。
「紗弥姉がそう言うなら〜」
「おやつ、いただきます!」
 智也くんがぺこりと頭を下げたらそのまま2人でリビングに入っていく。いかにも仲が良さそうで、ちょっと微笑ましかった。

「部屋行こう。あとは春菜が来れば全員あつまるよ」
「うん」
 サヤの後について階段を上る。クリスマスの飾り付けが凝ってて、きっとあのお姉さんかお母さんが張り切ったんだろうな、って伺えた。サヤには、そこまでのマメさは無いと思ってる。
「梨花来たよ〜」
 ドアを開きながら言えば、サヤの部屋には浦浜と小暮くんがいた。

「佐々木さんの私服って、ちょっとイメージと違うんだな」
「……小暮くん?」
 少し詰めてくれた小暮くんの隣に座りながら、私は疑問を投げた。
「いや……膝丈のスカートってイメージがなくて」
「確かに!梨花はロング丈のスカートかなって思ってた」
 確かに、ロング丈のスカートも履くけど……。今日はそういう訳にはいかない事情があったんだよ。
「ブーツ履くとこれぐらいの長さの方が良いから」
「僕は、ニットチュニックにレギンスパンツを着こなしてる清水の方がセンスあると思う」
「やだなぁ浦浜、褒めても何も出ないよ?」
 浦浜の言葉を返しながら、ジェスチャーで私に「どっちがいい?」って聞いてくるサヤは器用だと思う。私は2つのペットボトルからお茶の方を指差した。

「でも、センスって言ったら、浦浜もあるよね」
「……だよなぁ、お前、本当に彼女いないのかよ?」
「今はいない」
「「「今は」」」
 奇しくも、3人の声が被る。前はいたんだね、どれぐらい前か知らないけど。
「何だよ、その目は。僕と同じ中学の子だったけど、夏前に分かれた。学校違えば普通だろ?」
 げんなりしながら言う浦浜は、多分、頭いいし見た目はそれなりだからモテる方なんだろうなって思った。……私は自分のそういう感覚を信頼してないから、予測だけど。

 その時。
『紗弥香〜、松葉さーん』
「あ、春菜来た!行ってくるね」
 そう言いながら席を立つサヤを見送って、私は2人に向き合った。
「プレゼントは?」
「ああ、小暮」
「はいよっと。この数字の中から好きなの選んで」
 小暮くん紙を手渡された。その中の4つにはバツ印が描かれている。余ってる数字を選べって事、かな。それじゃあ……。
「4と5」
「わかった」
「付箋に書いて貼り付けたらこの箱の中に入れろって」
 浦浜に言われるがままに付箋とペンを受け取って数字を書く。どっちを4にしてどっちを5にするか迷ったけど、先に紙袋から取り出した方に「4」を、後の方に「5」を貼り付けた。プレゼントを箱の中に入れた時。

「みんな揃ったよー」
「あたし最後だったのかー!」
 タイツにショートパンツ姿のハルを引き連れたサヤが帰ってきた。

 さあ、パーティの開幕だ。

「ってな事が昨日あってね……」
「清水のお父さん、大変だな……」
「代わりにこのケーキを食べさせてもらってる訳だから、ありがたいけどなんていうか、複雑な感じになるな……」
 昨日、清水家では連絡ミスでクリスマスケーキが2つになってしまったらしい。流石に一度にケーキ2つは食べられない、と言う事らしく、昨日の残りの1つが切り分けられて私たちの目の前にある。ありがたい……と思って良いのかな……。複雑……。
「お父は丁度いいクリスマスプレゼントだろう!って笑ってたけどね」
 苺のショートケーキをモグモグと頬張りながらサヤが言えば、私たちは笑いながらもありがたくケーキを食べることにした。

「通知表もなんとかクリアしたし、私はこれから休みを満喫するんだー!」
「俺はこれからが大変。年越しと年初めは神社は大忙しなんだわ」
「……そうだよね」
 やけに実感のこもってる小暮くんの言葉に、私は真面目な顔で頷いた。今年の初詣は小暮くんの所に行こうかな。
「僕は明日から大掃除さ。ばあさんの手が届かないところは全部僕の役目だし」
「……兄ちゃんと一緒に窓掃除とかしないと…」
 年末年始は大掃除が大変、ってのは、どこの家でも同じなんだな……って思う瞬間だったりする。そうだよね、誰でもやらないといけないもの、だもんね。

「そんなつまらない事話すのやめようよ〜」
「さんせーい!」
「そろそろプレゼント交換しようー!」
「いいね、それ!」
 サヤとハルのノリのいい会話に私たちは笑いながら頷く。結局、このメンバーの流れを作るのは、2人なんだよね。

「それじゃあ、ここにアミダがあります!じゃんけんで決めた順番ごとに好きなところを選んで、アミダでたどりついたプレゼントをゲットー!……って感じでどう?」
「いいんじゃない?じゃあ、ジャンケンだ!」
 サヤの説明にハルは腕まくりをする勢いで拳を突き出す。それに対して浦浜は分かりやすくため息。
「面倒くさいな……」
「浦浜、本音出てる」
 思わず、そのままの事を口に出しちゃった。
「じゃんけんするよ!最初はグー、じゃんけんポン!」
 ハルの掛け声でじゃんけんを何回かした結果、順番が決まった。小暮くん、ハル、サヤ、私に浦浜……の順番でアミダを選んでいく。
「じゃあ、1つ目はこれで」
「はーい」
 色マーカーをキュポッて開いてサヤが指定された所からアミダをしていく。そうしたら。
「4番!」

 びっくりした、早速私が準備したプレゼントだ。2つのうちのどっちだっけ……。って考えているうちに小暮くんが包みを手に取った。
「これか!開けていいか?」
「開けちゃってー!」
 煽るサヤに「おう」って言いながらラッピングを取る小暮くん。その包みの中から出てくるものは……私は知ってるけど、ちょっと気恥ずかしい。
「マフラー?」
「ふーん、いい色じゃん。男が持っても女が持っても平気なデザイン」
 う、浦浜、やめて。恥ずかしい。そういうものを選べばいい、って兄ちゃんが言ってたから!そんなに、値は張らなかったし!

「反応からして梨花からのか」
「顔赤いぞ、りっちゃん!」
 サヤとハルのバカ、指摘しないでよ!ますます恥ずかしくなるじゃん!
「に、兄ちゃんにアドバイスもらったか、から……」
 うわ、マジで恥ずかしいんだけど、これ!だんだん声も小さくなって行っちゃう。
「佐々木さん、ありがとうな」
「……」
 ごめん、何も言えない。何も言うことができない。すごく恥ずかしい。周りからは笑い声が聞こえた。「どういたしまして」の一言が言えないとは……。ああもう、みんなは気楽でいいよね!最初だったんだよ!

 その後、ハルとサヤのプレゼントも無事に選ばれて、私の番。選んだところからたどり着いたのは。
「3番!」
 手渡されたプレゼントは、円柱形…っぽい、何か?何だろう、少し重い……?手に持ちながら目線だけでサヤを見たら。
「開けちゃって!」
「う、うん……」
 言われたままにテープでついている箇所を剥がし、そのままガサガサと開く。開いた所に出てきたのは。
「ペン立て?」
「カッコいいな、それ」
「モノトーンだから、どこにでも合いそう!」

 多分、そういう事なんだと思う。ちょっとくるくると回しながら見ながら小暮くんとハルのコメントが聞こえてきた。そんな事を言うって事は2人じゃないから……。サヤと浦浜を見れば、浦浜は私からちょっと視線を外した。多分……照れてる。つまり、これは。
「浦浜、ありがと」
「気に入たみたいで良かった」
 気のせいかもしれないけど、浦浜の声に安堵の色が見えた気がした。
「だから、お前のセンスいいって言ってるだろ!自覚しろっつーの」
「なんだよ小暮、お前のおかし詰め合わせに比べたら……」
「あれは小暮らしくてあたしは好きだけどね!ありがとー!」
「そ、そんなに笑いながら言わなくても……」
 ハルに笑顔でお礼を言われて照れる小暮くんってのもレアだなぁ……って思う。学校とは違うみんなの顔を少し、垣間見てる気分、だった。

 私たちはそのままアミダの続きをする。2周目に突入して、ぐるぐると私の番が回ってきた。その時の数字は。
「7番!」
 残り2つの中にあったそれを手渡されて開けてみれば(もう聞くことはない、だって絶対に開けろって言われるから)、そこにはディズニーキャラ物のフェイスタオルがあった。

「よかった、梨花なら使ってくれそう」
 にっこり笑いながら言うサヤに、これはサヤが選んだんだ、って納得した。確かにこのキャラならば、誰が持ってても違和感ない。うまいなぁ、って正直に思ったのも事実。使いやすくて人を選ばないプレゼントって、実はとっても難しいよね……。
「サヤ、ありがと」
「どういたしましてー」

 この時点でもう最後の1つは自動的に浦浜に渡ることになる。それを分かっていたわけだけど、そのプレゼントには「5」と書かれた付箋が張り付けられていた。
 そう、私の2つ目のプレゼント。さっきよりは気恥ずかしくないぞ、大丈夫。

 ビリビリと包み紙を破くと出てくるもの。浦浜には必要ない物だったかもしれない、って内心思ったんだけど。
「ノートと……」
「暗記用のペンに下敷き……」
「誰のセンス?」

 小暮くんとハルが浦浜の手の中にあるものを見る。それに目を丸くしながら聞いたサヤに、私は恐る恐る手を挙げた。
「なんか納得」
 ケラケラと笑いながら言うハルに、ちょっと仏頂面になる。だって。
「兄ちゃんが1つは『アタリ』にして1つは『ハズレ』にしろって言うから……その通りにしてみたんだよ」
 責任転嫁でも何でもいい。今はみんなの視線から逃げたい。
「まあでも、これから役立ちそうだし、佐々木らしいんじゃないか?ありがとうな、使わせてもらうわ」
「うん、使ってくれそうな人に渡って良かった」
 その台詞に笑い声が起こる。だってそうじゃん、サヤとか使い方知らなさそうだもの。

 私は、こんなクリスマスパーティも悪くはないかも、って思った。こういう思い出が積み重なればいいな、って思いながら。


 気の合う仲間、って……いいね。そう、思ったんだ。



2015.3.28 掲載