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「秋菜~、何そんなに怒ってんの? ねぇ、あたしが何か言った? あたしのせい? それとも……この前ふざけてた……なんだっけ、あいつのこと?」
「…………」
「ねぇ、秋菜~」
「……。春菜、うるさいよ?」
2人の少女が廊下を歩いている。1人は少しウェーブのかかった淡いオレンジのショートヘアを揺らしながら後ろ歩きで自分の親友の顔を覗き込む。一方、もう1人は青くて長い髪をポニーテイルにまとめ、その尻尾を左右に揺らしながらずんずんと進んでいく。周りにいる生徒たちはそんな二人を気にも留めずに自分たちの行うべきことを行っていた。
「あたし何かしたっけ……? ん~、この前の宿題は自力でやったし、提出物でも秋菜には迷惑かけてないし……」
そんな中、春菜と呼ばれた少女の声がよく響いていた。
「相変わらずだなぁ、あの2人」
「懲りないねぇ、あのショートヘアの子」
「きっとそろそろ雷が落ちる頃だと思うんだけど……」
2人が通り過ぎた後の生徒たちのささやき声からこの光景が決して珍しいものではないことがうかがい知れる。よく見ると2人の姿を呆れた目で見ている生徒がほとんどのようだ。
その中、春菜はいまだに秋菜に不機嫌になった原因を探ろうとしていた。
「……、えーと、じゃあ昨日ボールぶつけちゃったこと? ……、それとも部屋にあったアップルパイ食べちゃったこと? ……、ん~あとは、あ! 昨日勝手に掃除サボった……こと?」
この会話をしながら足だけは動かしていた二人だが、春菜が最後のセリフを言い終わるか終らないかのところで、秋菜が急に足を止める。そして『ぶちっ』と何かが切れたような音がした後、秋菜の大声が廊下に響き渡った。
「わかってんなら反省しなさい! 春菜が掃除サボったせいで私が大目玉食らってんの! あとアップルパイ食べたのもやっぱりあんたなのね! 本当に信じられない! ボールのせいで出来たたんこぶも痛いし! いー加減、自分の行動に責任持ちなさい!」
ノンブレスで言い切った秋菜にいきなりまくしたれられて固まる春菜。その光景をまわりで見ていた他の生徒たちの時間は一刻の間完全に止まった。
そして先に現実に戻ったのは生徒たちで秋菜をたたえる拍手を送り始めた。
パチパチパチ……
「さすが秋菜ちゃん! よく言ったね!」
パチパチパチ……
「秋ちゃんかっこいー!」
パチパチパチ……
「すごいすごい!」
パチパチパチ……
「今日はいつも以上にテンポ良かったぞ!」
パチパチパチ……
周囲の自分を称える声に我に返った秋菜は立ち止まっていた足を動かしながら取り繕い始めた。
「あ、えっと、ごめんなさい皆さん! わーはずかしっ! えーと、あんまり気にしないでもらえると助かります!」
あたふたと弁明をする秋菜を横目で見ながら春菜は沈んでいた。
「久しぶりにマジヘコむよ~。秋菜ぁ~」
声を上げるものの取り合っている余裕がない秋菜はまるで気が付かない。春菜はその慌てふためく秋菜の様子にこれ以上抗議を言っても無意味であると悟ったのかむっつりと黙り込んだ。
そんな親友の様子に全く気が付かずに秋菜は弁明を続けている。
「えっと皆さん、そろそろ授業ですよね!」
少々わざとらしく聞こえるが、どうにか周囲の生徒たちの意識を自分以外に向けようと必死である。
「あの、廊下で拍手なんてしてる場合じゃないと思います。そろそろ教室に戻ったほうが……」
と、秋菜がもっともなことを言った時であった。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
今の今まで廊下を埋めていた拍手が一斉に止まる。その中、無情にもチャイムは鳴り続けた。
ラストワンセットに入ろうとしていたところで正気に戻った生徒たちは大急ぎで教室へと入っていく。もちろん、つい先ほどまでノンブレスで親友に苦言を言い、その光景を取り繕っていた秋菜とその親友に見事に廊下でキレられてヘコんでいた春菜もほかの生徒たちと同様に教室に向かってダッシュをした。
2011.7.20 掲載
2013.5 一部改稿