番外編:その頃の男子2人


3章3話の前の話。男子2人はカイサに話を聞きに行ったはずなのだけど…?



「あーあ、面倒くさいなぁ。図書室で調べものしてる方がいいなぁ」
「なら、居残り食らってるなよ」
「うわ、ひっでー。カイロ、自分の事棚に上げて!!」
 リアドとカイロの声が病院棟の廊下に響き渡る。今、2人は正にパリスの飼い鳥であるカイサの元へ向かっていた。
 2人も本来ならば図書室での調べものに加わるはずだったのだが、宿題の提出期限が過ぎているにも関わらず宿題を提出しなかった2人に、教科担当のロンドンはその分の宿題を居残ってやるように言いつけた。
 もちろん、反論をしたのだが最終的に非を認めさせられ、ウィーンに図書室の調べものに参加できないならカイサの話を聞いて来い、と指令を渡されたのだ。
 まとまった時間がなかなか取れないでいたため、カイサから込み入った内容を聞き出す余裕も今までほとんどなかったメンバーは、最初にパリス、モスクワ、アテネが聞きだした内容以上の事は聞けずじまいでいた。それも理由にしながら、カイロにまで納得させたウィーンはやはりさすがと言うべきだろうか。

「俺は別にそんなに時間かからなかっただろ?」
「さりげなく腹立つ言い方するよな、カイロって」
 さらりと言い放つカイロに憮然と抗議するリアド。まったく意に介した様子も見せないカイロに、はぁ、と息をついて肩を落とした。実際、カイロは頭がいい。いたずらや斜に構えて反発しているせいで性質が悪いだけだ。
「んなことより、何を聞き出せばいいのか分かんねー、っての」
 そのまま、リアドはぼそり、とつぶやいた。

『リアド、ウィーンの話聞いてた?』
「え、ウィーンの話?」
 ローラがそのリアドのつぶやきに答える。それに全く的を得ないリアドの返事が続いた。
『出来るだけ詳しく思い出してもらってきて、って言ってたでしょー! 今まで何聞いてたのよ』
 これ見よがしに大きなため息をつくローラに、かつん、と来たのだろうか、リアドの顔にさっ、と朱が差した。
「ここで発火するなよな、馬鹿」

 ぱしん

「いってぇ」
 カイロが一瞬にして跳ね上がった気温を感じ取り、面倒くさげに後ろから頭をはたく。そして痛みに頭を抱えているうちに通常の温度に戻ってきたリアドは足を止めた。もちろん、そのリアドを待っているほどお人好しでもないカイロは、そのまま足を運ぶ。急な展開だったため、ローラもぽかん、とカイロの後ろ姿を見つめているだけだ。

「置いてくぞ?」

 たっぷり数十秒が経ったところで、カイロはリアドの声をかける。慌ててリアドが駆け足で追いかけくる、その様子を見ながら、カイロの肩の上でティラがふぅ、と息を吐き出した。

「はい、面会は飼い主じゃないから30分までですよ?」
 獣医室に着いたカイロとリアドはダッカからそう言われた。飼い主が同伴でないと時間が制限されることは承知の上だ。カイサへの負担も考えて、と言う事だろう。
「はい、わかりました!」
「わかってますよ、何回来てると思ってんすか、先生?」

 リアドは大きく頷いたのに対してカイロはぶっきらぼうに返しただけだ。それも、皮肉を込めて。
「あー、えっと。カイロの事はあんまり気にしないでください、お願いします」
 代わりにフォローを入れるリアドに、ダッカはにこやかに頷き返した。ちゃんと分かっているから、とでも伝えるように。
「分かってますよ、アーリアルのリアド。さ、こっちです」
 ダッカの誘導に従って奥の部屋に行くと、大きいケージの中にいるカイサの姿がある。カイサは久しぶりに見る知り合いの顔にちょっとうれしそうにしたものの、カイロを見止めるとぷいっ、とそっぽを向いてしまった。

 あらかじめそうなることを予想していたのであろうカイロは、特に我関せずといった様子だ。むしろ、そのあからさまな態度にリアドの方が面食らった。
「なんだよ、なんでこんなに『顔も合わせるのもいやです』ってなってるんだよ?」
 疑問を禁じ得ないリアドの質問に、カイサはくいーる、と鳴くことで答えた。
「ローラ、なんて言ってんの?」
 自分の質問に答えてくれたのだ、と確信を持ったリアドは自分の妖精に聞く。すると、代わりにティラが答えた。
『誰がそんな薄情で恩知らずで言ってることを信じられない人間の言葉を信じますか! ですって』
『……そこまでは言ってないけどね』
 ローラの苦笑にふん、と鼻をならすティラ。そこには存分に私情が挟まれていた。
『だって、カイロのこと頼ってサヘル空から雷平空に助けを求めに来たカイサを門前払いしたんだよ!?それも何回も! いくらなんでもひどすぎるって』
「ティラ、それ何年前の話だよ?」
『3年前! 去年だって一泡吹かせたいから、って理由で餌に唐辛子混ぜたよね』
 その話にぽん、とリアドは手を打ち鳴らした。
「ああ、去年そういえばちょっと話聞いたよな。オレ、忘れてたわ」
「あんな話忘れといてくれた方がいいんだよ、俺としては」

 去年、カイサのエサを唐辛子入りの物とすり替えようとして見事に罰を食らったことを思い出したリアドは、前からパリスがらみでカイロがカイサの事を嫌っていることを思い出した。まさかこの場でそれが持ち出されるとは考えていなかったが。

 くいーる

 その時カイサは一声鳴いた後、完全に後ろを向いてしまった。
 その様子にティラは一層怒り顔になった。
『カイロ、カイサはあなたに対して言う事なんて無い、って言ってるよ!!どうするのよ、もう!』
「えええ。ちょっとカイサ、オレ達いくつか聞きたいことがあって来たんだけど」
『だんまり、決め込んじゃったの?』
 ティラの言葉に慌てたリアドはケージの前にしゃがみこんでカイサに向かい話しかける。それでもそっぽを向くカイサに、ローラもやんわりと質問をした。微動だにしないカイサに、後ろからその様子を見ていたカイロは踵を返した。
「おい、カイロ! お前どこ行くんだよ!」
 すかさずリアドが声を掛けると、カイロはティラに髪の毛を引っ張られながら、答えた。
「図書室だよ。俺たちよりも適任が図書室にいるから、そっちに来てもらおうぜ」
「え、え? カイサ、マジで何にもオレ達に教えてくれないのか?」

 ケージの前でしゃがみこみながら質問を投げかけるリアドに、背を向けつつも首を少し動かしたカイサは、小さく頷いた。
『やっぱり、カイロとリアドじゃ嫌なのかなー』
「ううー、そうか。それじゃ、なんとかパリスかウィーンに来てもらうから。その時話してくれよ」
 カイロは一足先にに部屋を出て行ったので口早に言うと、リアドはケージの前から立ち上がった。カイサとカイロのわだかまりはかなり大きいな、と感じながら、リアドはカイロの後を追いかけて部屋を後にした。



2013.5.26 掲載