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番外編:妖精たちの存在


妖精と能力者について。現時点で分かっていることを、とある授業中に復習しているようです。



 能力者を取り巻く環境は、なかなかにシビアである。特に、この「そら」の学校に入るほどの力を持った能力者たちは。
 この学校には、能力者が毎年10人前後入学してくる。学年全体が200人程である事を踏まえれば、5%ほどの人数だ。この数字が驚きではないのは、妖精持ちと呼ばれる、上級の能力ポテンシャルを持っている能力者の割合とさほど変わらないからだろう。

「みなさんもご存じのとおり、能力者にもランク付けがあります」
 教鞭を握るキャンベラ先生の話をつまらなそうに聞きながら、カイロは縛り付けられた椅子から脱出できないか画策をしている。度が過ぎるいたずらのため、教室の中の物が壊れるのは日常茶飯事なのだが、先生たちも対応に慣れている。
「みなさんは上級、妖精持ちです。このランクの人は、全世界の中でも4~5%だけである、と言われています」
 かりかり、とノートに書きとる音が聞こえる。カイロはもちろん、ノートを取ることができない。絶縁体であるゴムにコーティングされたロープで縛られてしまえば、物理的な刃物を使用して切る、ゴムをこすり取る、何とかゴムに切れ目を入れる、ぐらいしか脱出する手立ては思いつかない。ゴムが切れればこちらのもの、電気で焼き切ることができるのだが。

『カイロ、やめなよ』
「なんで?こんな常識の説明されても困る。それなら、効果的な技の決め方とかこの前の歴史の続きとか、そっちの方が面白い」
『……それはそうだけど、みんな我慢して聞いてるよ?』
「聞いてる、ねぇ……?」
 ティラのやんわりとした注意に、カイロは鋭く応戦する。いや、この場合、自分の率直な感想を伝えているだけ、ではあるが。そして、最後のティラの言葉に、教室の中の様子をうかがった。
 確かに、アテネは真面目そうに聞いている。だが、ウィーンは他の科目の宿題をやってるし、モスクワは半分夢の中。リアドはパリスを眺めているし(視線が完全に斜めに逸れている)、パリスはノートに何かを書いているが落書きだろうことがうかがえた。
「アテネは、な」

「中級の能力者は「みずのなか」の学校に行くのはみなさんご存知だと思います。その人たちの割合は10%程度です。また、「りくち」の学校に行く能力者たちは総人口の15%ほどですね」
 キャンベラ先生が黒板に書き加えていく図を描き写すアテネ。それを見て、ふと顔を上げた。
「全体の人口の30%近くが能力者……?」
「そうです、アジエンスのアテネ。しかし、近年、妖精持ちの能力者たちが減ってきていると言われています」
 その言葉には、今まで他の事をしていたウィーンやリアド、パリスは弾かれたように顔をあげた。クラスのもう半分でのチームでも、何人かが顔をあげる。カイロも、身動ぎを止めたほどには衝撃だった。

「せんせー、それって昔は割合が違ったんですか?」
 椅子に縛り付けられているために手をあげることができないカイロは、そのまま質問を口にした。家族が歴史家だからだろうか、カイロは歴史の考察が好きだった。
「そのような記録が残っています。その昔、能力者の四分の一は妖精持ちだったそうです」
「どれぐらい前です?」
「……1000年近く前の記録ではありますが、いつ、と詳細は分かっていません。それも、「妖精の数が減ってきている」と書いている文献でした」
 衝撃が教室に走った。半分寝ていたモスクワも覚醒したらしく、前のめりになりながら話を聞いている。
「……仮説として、さらに昔は割合が大きかった、という事もあり得るってことか」
 完全にロープをほどくことを忘れて考え込んでいるカイロに、ティラはため息をついた。無駄に頭がいいせいで教科書の内容はほとんど一読で理解してしまう。そのため、真面目に勉強をしない性格になってしまっているが、元々、好奇心は強いのがカイロなのだ。問題はその方向性だけ、で。

 きーんこーんかーんこーん

 無情にも、そこでチャイムが鳴り響いた。
「それでは、座学はここまでにしましょう」
 そう言いながら教壇を降りるキャンベラ先生は、カイロの元へ足を向けながら教室全体に向かって言った。
「これから演習場で能力の測り方を実践します。時間厳守で演習場に集合する事」

 ナイフをローブのポケットから取り出すと、キャンベラ先生はカイロのロープを切りながら、カイロに向かい声を掛ける。
「あなたには追加の課題があるので、あとで確認しておくように」

 それほど時間がかからなくても、面倒くさい事に変わりはない、という考えのカイロは露骨に嫌な顔をキャンベラ先生に返しながら、ロープをほどきつつ立ち上がり、チームメートの後を追った。



2014.10.12 掲載