番外編:いったいあの人なんなんだろう?


「それでもこれが私たちの日常」で梨花が回想していたシーンの後、帰った梨花をよそに話を始める4人。



「じゃあ、また明日。」
そのセリフとともに教室を出て行った梨花。帰る間際に椅子を借りる許可を得た優気が椅子の背を前にしてまたがるように座りながら口を開いた。
「ところで、佐々木さんって何なんだろうな。」
「小暮くん、あたしにはその質問の意味が分からない。普通の人、でしょうが。」
「えっ、そうかな?私はなんかアンテナもってそうって思ってるんだけど。」
 
一般的なコメントをこぼす春菜に対し紗弥香はどこかずれた発言をした。
「あ〜、オレ清水さんの言いたいこと、なんかわかる。なんていうか、自分はかかわりたくないのにどんどんかかわりが増えてっちゃうというか、無意識のうちにかかわるようになっちゃってると言うか。」
「そうそう!小暮くんすごいや!」
自分の言いたいことが伝わったことがうれしかったのだろう、紗弥香はキラキラとした目で優気のことを見た。
「いや、それほどでも・・・。」
照れているのか、恥ずかしいのか。優気ははにかみながら頭をかいた。
「でも、小暮の言ってることは一理あるな。」
それまで黙ってほかのやり取りを聞いていた和司が口を開いた。それを受けてちょっと考えるしぐさをする春菜に紗弥香。そこでポン、と手を打ったのは春菜だった。
「佐々木さんはかかわりたくなくってもかかわっちゃうタイプ、だよね。」
そして和司に同意するように春菜もうなずく。
そんな一を聞いて十を知ったかのように納得している春菜と同じくとても少ない情報で春菜と同じ結論に達したであろう和司の2人を不思議そうに見つめる紗弥香。
「何のこと言ってるのか、さっぱりだよ。それよりもさ、松葉さん!妖精って本当に居るんだよね?」
そして紗弥香は梨花が割り込むまで話していた話題に強引に切り替えた。
「・・・。う〜ん、いると言えばいるけど。でも、普通の人たち全員に見えるってことはないんだよ?」
意味深長な言葉を紡ぐ春菜。でも、と食い下がる紗弥香。
「でも、見たい、会いたいっていつも願っていれば本当になるんじゃないの?」
「そういうもんじゃないんだって。まずは素質が必要なんだよ。・・・って言っておきながら、あたしにはその素質ってのがなんなのかはわかんない。」
「え〜!」
「その素質がないとそもそも、“入り口”がやってこないし。」
「・・・意味わかんねぇ。」
「それが普通だ、喜んどいたほうがいいぞ、小暮。お前はここでこんな会話してる時点で“普通”から外れ始めてるんだ。そうだな、完全に外れた暁には松葉さんが何言ったのかわかるぞ。」
「まるで自分はその“完全に外れたもの”みたいな言い方だな。それ言うなら松葉さんも。」
「・・・。ま、いろいろあったんだろうな。」
女子2人の会話の意味が分からないとため息をつきつつこぼした優気にやんわりと現実を突きつける和司。そしてそのセリフ自体がとても普通ではないことに優気は気が付いたのだ。今はまだ知らないでいい、とでも言いたげな和司の言葉と視線に優気は少々いらつきを覚えながらもその場は特に言葉をつなげなかった。
しかし、和司の言葉に反応を示した人物はもう1人いた。紗弥香を相手に妖精について説明をしていた春菜の耳がピクリ、と動く。そして、くるりと男子2人の方を向いた。
「あのさ、「さん」つけないで。苗字でも名前でも、どっちでもいいけど「さん」はいらないよ。」
春菜はさも今気が付いたといった体で手を挙げながら発言する。
「そんなこと言ったって、無理だろ。とりあえず、オレは無理だな。」
 一般的な見解と親しさから言っているのだろう、優気の言葉は正論だ。
「あ〜、小暮くんには期待してない。あたしは浦浜くんに言いたいんだ。」
 体裁の関係で2人に話しかけたということがあったのだろう。しかし春菜は初めから和司だけを意識していたようだ。少し考えた後、和司が口を開いた。
「・・・。わかった、松葉後で面かせ。」
「元からそのつもり。浦浜には確認したいことがある。」
ちょっと剣呑な空気を醸し出し始めた二人のことを伺う紗弥香と優気。
「ケンカってわけじゃねーけど、何なんだあいつら。」
「ん〜、私にもよくわからないや。」
そしてぐ〜っと伸びをする紗弥香。
「まぁいいや。私そろそろ帰るね!」
「うん、また明日、清水さん。」
「また明日ね〜、清水さん。」
紗弥香は和司と春菜のあいさつに手を挙げることで答えた。
「オレも帰るからな。2人とも、ケンカすんなよ。」
「ああ。」
「わかってるよ、小暮くん。また明日!」
そして梨花の席を立ち、元に戻した優気に小さく手を振ってあいさつする春菜に特に言葉はないが手を挙げて挨拶をした和司がいた。

「さて、みんな帰ったからな、話すか。」
その後教室に居るのが二人だけになるのを待ったようにおもむろに和司が口を開いた。
「そうだね。まずはあたしからにしようか。・・・、あたしは“条件を要する場”の一つに囚われていたことがある。それが、[フェアリーワールド]との“狭間の場”だよ。」
「うわぁ、まじか。」
「マジだよ。あたしはこっちに“帰ってきた”けどね。」
一見すると何を言っているのかわからないセリフだがどうやら和司は完ぺきに理解したらしい。
「ほら、あたしは話した。次はあんただよ。あたしぐらいのことだけ話せばいいじゃん、何悩んでるんだか。」
う〜ん、と考え込んでいる和司を春菜が促す。すると、あきらめたのか小さなため息が聞こえた後おもむろに口を開いた。
「僕は“放浪する場”の1つに捕まった。友達と一緒にな。その“場”は“時空間の干渉を受けない場”だ。」
「あらら・・・。結構な事情じゃん。」
「お前も結構な事情だと思うけどな。ってことで、あきらめて協力体制をしこう。いいよな。」
「もちろん。細かいこともいろいろ確認したいけど、とりあえず“場”の経験者であるってことを確認できたからよしとするよ。」
すっと春菜が和司に向かい手を差し出す。それを一瞬考えた後に力強く握り返した和司。
「ああ、これからよろしく頼む。」
そしてそのまま二人は鞄を手に取り教室を出て行った。



2011.11.25 掲載