三世界伝説


  1. この世が混沌の中から生み出されようとしているとき、4人の神々が降り立った。1人目は大空を、2人目は海原を、3人目は大地を作り出した。そしてそれぞれ作り出した場所に適応できる生き物を作った。4人目はひそかに大地に大きな口を開けさせ、他の3人にはなにくわぬ顔で人間を作ったことを宣言した。人間はすべての世界に適応できると力説する4人目に、他の3人は人間をすべての世界に迎えることを了解した。

  2. 人々はみな能力など持っておらず、平穏に生活していた。しかし、4人目の神が開けた口から吹き出した霧のため、この世に妖精が生まれた。それと同時に妖精が司る力を持つ人間が生まれ始め、この世に能力を有した人間とそうでない人間が生まれるようになった。

  3. 生まれた妖精たちは力ごとに風・雷は大いなる大空へ、水・植物は母なる海へ、炎・土は恵みの大地へと向かい、それぞれの世界を象徴する力がここに生まれた。

  4. 4人の神々はこの世界のどこかで深い深い眠りについており、この眠りは妨げられてはいけない。すべての神が目覚めし時、この世界は再び混沌となり、新たな世界が創造される。

1章:「そら」の学校…1



カツカツカツ・・・ちょっと大きな廊下に私の靴音が響く。
「さすがにまだ人はほとんどいないか〜。」
私は肩に乗る妖精に声をかける。
『ま、朝もまだ早いうちだし。』
という声が返ってきた。

夏休みから帰ってきた校舎はまだ朝が早いことも手伝ってか、まばらにしか生徒がいない。そんな中、私は迷うことなく寮へと続く廊下を曲がった。突当たりには大きな吹き抜けが付いている螺旋状の階段がある。私はその吹き抜けを風に乗って上に昇ることが好きだった。・・・本当は校則違反なんだけど。
いつの間にか私は廊下を歩き終わっていたらしい。目の前には5階まで続く吹き抜けがあり、風を造る準備をしながら私は右肩にかけていたボストンバッグをゆすり上げた。
「今学期最初の急上昇・・・なんてね。」
自分にクスリと笑いながら私は造り出した風を足に送った。

ぶわっ

風が私を中心に渦を巻き私を真下から押し上げる。後はこの上昇気流とは逆、つまり下降気流を造り押さえながら目的地まで「飛ぶ」だけ・・・のはずが。
「あれっ?」
久しぶりすぎたかな?とちょっと反省する。
『あーっ、パリス、ちょっと!!』
私の肩からとっさに飛び立った(妖精の)ルルの声が聞こえた気がした。どうやら力加減を間違えたようで思ったよりも軌道がずれてしまい、いまや高さ的には2階と3階の間、目指しているところは開いている通路への入り口ではなくその隣の壁になっていた。
「わわ、ぶつかる!」
とっさに思わず目を閉じてしまい、まもなく来るはず衝撃を待っていたはずがなかなか来ない。代わりに私の右手首に何かがまきつく感触がし、体の移動が止まった気がした。
「まったく、なんか見覚えのある銀髪ポニーテールが飛んでいると思ったらやっぱりパリスじゃん。あえて止めない方がよかったかな?」
声を聞いたとたん私は目を見開いて2階の踊り場から手を振る深緑のショートヘアを持つ少女を見つけた。
「アテネ!ってことは止めてくれたのは君の蔓?」
いわゆる宙ぶらりんになりながらも自分の右手首を見た。すると確かに植物の蔓が巻きついている。横目でアテネを見るとニコニコと笑っていた。
「そう!さてリュア、この人どうしようか?」
笑顔で自分の妖精に相談するアテネが怖い。・・・ともかく怖い。しょうがないので私はルルに伝言をお願いする。
「ルル、ごめんなさい、反省してますって伝えてきて。」
『・・・パリス、ほんとに約束守る?』
「向こう1週間は必ず。」
『・・・はぁ。分かったよ。』
半ばあきらめたように頷いたルルはアテネのもとへ向かった。

私は辛抱強くルルの帰りを待っていた。・・・もちろん宙ぶらりんの状態で。だけど、いくら朝が早いとはいえ生徒がいないわけではなく、しかも自分の目立つ長い銀の髪も手伝ってくすくす笑う生徒たちが後を絶たない。それでも私はここでアテネが私を離さない限り今学期の生活がひどくなることを知っていたのでひたすら我慢に徹していた。・・・惨めな気持ちをかみしめながら。
「そろそろ反省したかな?」
アテネの声にはっと顔を上げて反応する私。
「した、十分したから離して!」
とっさに私は彼女に向かって叫んでいた。それをみながら大げさに笑うアテネと2人の妖精たち。・・・追い討ちをかけて惨めになってきた。ドウシヨ、私・・・。
『アテネが自業自得だって。』
ルルがいつの間にか目の前にいる。私はげんなりとした視線をルルに送った。
「そんなに私がさらし者になってるのが楽しい?」
私の新たな問いかけににっこりと笑うルル・・・だんだん悪魔の笑みと化してきている気がします、真面目に。
はぁ、とため息をついて私は開いているほうの手、左を上げる。
「ごめんなさい、アテネ。これからは行動を自粛するから、お願いだからここから下ろして・・・ッ」
最後は息を詰まらせて、ちょっと涙目で。演技もまんざらではない。だいぶ生徒の数が増えてきたからここは誰か友達が出てきてくれることを・・・願ったんだけど、もはやどの生徒も日常茶飯事としかみなしていない。はぁ、ともう1回ため息をついた。
「やっぱこの学校のみんなは学習能力高いわ〜。まあ、今日のところは学校初日からみんなに話題を提供したことで良しとしましょう!」
とアテネは腰に手を当てながら私をつかんでいた蔓をはずした。シュルシュルと音を立てながら私を離す蔓に私はいともたやすく空中に立っていた。
「あれ、来ないの〜?」
ひらひらと手を振るアテネを私は一瞥してから肩にかけていたボストンバッグをアテネの方に放り投げる。
「ウワッと!何考えてんのよ、パリス!?」
アテネの声を無視しながら私は来た道を引き返すために地面に降りる。
『パリス、どうしたの?』
ルルも私の目を覗き込んだ。
そんなルルも無視して私はくるりと振り向くとびしっと敬礼を決める。
「ちょっと外の空気吸ってくる!荷物部屋までよろしく!」
言い終わるや否や私は外に向かうため廊下を走り出した。



2011.6.25 掲載