あ〜もう。何でアテネっていつもああやって人をおちょくるのが好きなのかな・・・。まぁ、確かに私も久しぶりにはしゃぎすぎたかもしれないけど、あれはほんとに無いよ・・・。
「ああ、むしゃくしゃする。」
ポツリとつぶやいた言葉は風の中に消えた。なぜなら私は今全力疾走しているから。
私が学校に来た時間に比べるとわずか30分ぐらいしか違わないのに生徒の数は確実に増えているのがわかる。つまり、それだけ私が人にぶつかっているはずでもある。もはや無意識のうちに風を操る私は人にぶつかりそうになった瞬間、空気のクッションを作ることでほとんどの人たちに迷惑がかからないようにしていた。・・・はずなんだけど。
ドンッ
「わたっ、ご、ごめん!」
右肩がぶつかってちょっとよろけながらも私は踏ん張り、片手を挙げることで謝る。そのまま私はぶつかった相手を振り返りもせず再び走り出した。
『ちょっとパリス・・・。今の人、知ってると思うんだけど。』
いつの間にか追いついていたルルが私の耳に怒鳴る(といっても妖精の声なのでやっと聞き取れるぐらい)。
「え、先生だったかな?」
ちょっとスピードを緩めたとき、私の足をありえない痺れが襲った。
ビリビリビリッ
「!%#&?」
あまりの痛さにまともに声も出ず立ちすくむ。するとそこに聞き覚えのある声が聞こえた。
「ったく夏休みぶりにあって挨拶の一つもなしかよ?」
「!ま、まさか・・・。」
「パリス、まだ雷くらいたいか?」
ぐるりと勢いよく回転した私は右手人差し指をびしっとさしてその同級生の名を呼んだ。
「カイロ!いきなり何すんだ!」
「そっちこそいきなりぶつかっておいて何もなしなのかよ。しかも、周りの”一般生”達にいい迷惑だ。」
「その言葉、そのまま返す。君が雷放ったとき、どんだけの生徒たちがしびれたと思ってんの。」
数週間ぶりに会った同級生と私の間には険悪なムードが漂い始め、私たちの妖精がおろおろと私たちのことを見比べている。流石に生徒たちも巻添えを食らいたくないのか遠回りをしながら歩いていく。そして、2人同時に技を発動しようとしたとき・・・
「やめろよ、みっともない。」
何処からとも無く土壁が現れ私とカイロのことを包み込み、他の生徒たちから隔離した。
『まったくだね〜。喧嘩するほど仲がいいってか?』
一瞬のうちに私とカイロは喧嘩腰を解き、ゆうに2メートルは超える土壁を作った同級生に声をかけた。
「モスクワ、相変わらずこんな土の無いところで見事な土壁作るね。尊敬しちゃうよ。」
「まったく、学校に通ってるのがもったいないほどの才能だよな。」
まるでそれが合図だったかのように土壁の一角をくりぬいてモスクワが姿を現す。茶色の短い髪の上にやんちゃな妖精が座っている。
「朝っぱらから何やってるんだよ、俺のチームメイトたちは。キイ、分かるか?」
モスクワはわざとらしく自分の妖精に語りかける。
『さ〜ね〜。ルル、ティラ・・・何があったの?』
・・・心なしかどすが利いている声が私の耳に届いた。
ルルとカイロの妖精、ティラはお互いを見つめた後それぞれの主の髪に中に姿を隠す。・・・ルルは私の銀髪の中に、ティラはカイロの金髪の中に。
「キイ、頼むよ。ルルたちは悪くないから。」
「ティラはマジ何もしてねぇよ。だからキイ、二人を攻めないでくれ。」
私とカイロの言葉にけらけらと笑い出すモスクワ。そしてキイもニヤニヤと笑っている。
「お前ら単純。キイと俺がお前らに何かするわけ無いじゃないか。」
大げさに手をぶんぶん振りながら土壁を壊して行くモスクワ。
「とりあえず、部屋に向かおうぜ。どうせアテネ辺りはいるだろうし、パリスは荷物無いからすでに一回部屋に行った後こっちに来たってことだろ?」
この問いに私はあいまいに頷いた。
「よし、んじゃ行くぞ。」
先頭に立って歩くモスクワに一瞬肩をすくめて目を合わせたカイロと私はゆっくりと後に続いた。
ああ、生徒たちの視線が痛いってこんな感じなのかなって実感できるほど今私たちは注目されている。それは・・・まあ新学期早々に喧嘩をおっぱじめようとするほどお騒がせな私たちだけど。しかも、能力全開で喧嘩しようとしてたけど。自覚していてもやっぱり上級生からの視線がつらい。
どうやらそれはモスクワやカイロも同じらしく、苦笑いを浮かべながら特に何も話さずに歩いている。もちろん、上級生たちのコメントは耳に届いているわけで。
[あ、お騒がせチームの子達じゃない。]
[2年生なのに、ほんとに困る・・・]
[かわいそうよね、それぞれが他の人たちの足を引っ張ってるって自覚しないと・・・。]
[学校の名前に汚名を着せてくれてるし]
[もう早速問題起こしかけてるわけ?これがから能力者たちは・・・]
[この類の人に私たち一般生のことを分かれって言うほうが無理だって]
私はため息をつきながら右隣を歩くカイロに話しかけた。
「ねぇ、何なのこの私たちの嫌われ方?」
「は?そりゃ3割方お前1人でこさえただろ?去年とか「そうそう、何したっけな、パリス?」
私はカイロに話しかけたはずなんだけど、いつの間にかモスクワまで会話に加わってきた。しかも、去年、1年のときの話、だなんて。・・・心当たりがないわけじゃないのがまたいやな現実だ。
っていうか・・・。心当たりがありすぎるような気もしなくもない。
「ちょっと。私が去年何したってのさ。・・・連帯責任じゃないの?」
一応顔色を伺ってみることにした私。
「ん?噴水を壊したのはお前だけだって。」
そういいながら笑いをこらえるのがつらそうな顔をするモスクワ。だったら最初から言わないでほしい。
「あ、あれは事故だって!あの時、リアドがいきなり飛びついてくるから!」
私が去年のことについて弁解(?)をしようとしたら後ろから声が聞こえた。
「なぁ、オレがどうしたって?」
時間が止まったんじゃないかって思った。私たち3人とも動きを止めたのが分かる。この人物は一番危険かもしれないと思う。炎を身にまとい、今まさに後ろに迫る熱を感じたらそりゃ・・・って!何を言っている私!今わずかに背中に冷や汗が流れているということのほうが事実なんだ!
「リアド・・・やめろ〜〜〜!!!!」
私の叫びが廊下中に響き渡る。どうやらいつの間にか踊り場に出る前の曲がり角に来ていたらしく、生徒たちがとっさに私たちから距離を取っている。私は全身から風を作り出し私の肩に腕を回そうとしていたリアドをはじき出すように、自分を中心に渦を作り出した。
「離れろ!私にくっつくな!(このチームの女子の中じゃ)私だけ君の能力の影響を受けないからって!」
「え〜いいじゃん。スキンシップぐらいさせろよ。」
「させるか!君がやってることはセクハラだって!」
「だってさ『だってじゃないよ!リアド、あれほどパリスが嫌がることしないって約束したのに!』
リアドの燃えるように赤い髪の脇を通ってリアドの妖精であるローラが姿を現す。
『いつもリアドのせいで物事がややこしくなるんだから。』
ぷりぷりと怒るローラは私の目から見てもかっこよく写っていたと思う。
気がつくとやっぱりリアドは私の肩に手を回して、へらんとしている。開いているほうの手を振っているので誰に向かってやっているのかと思ったら・・・
「モスクワ!カイロ!何で行っちゃうの!?」
「まぁパリス、がんばれ。」
「久しぶりなんだから多めに見てやれって。」
ふつふつと私の中で怒りがたまっていく。隣をにらみつけると、「ん?どした?」なんて聞いてくる、どこかずれている同級生。・・・ため息しか出てこない。
そして気がついたことが一つ。リアドはあまり喧嘩に参加はしないけど、喧嘩の種をまくのが非常にうまいということ。こいつは正真正銘のトラブルメーカーかもしれない。
2011.7.9 掲載
「あとがき座談会」へ