本編の前の時間のお話。リアド視点
「なんでオレらはほかの生徒たちが初登校する2週間も前から入学する学校に行かないといけないんだ?」
オレの発した声が3人しか乗っていない“飛行船”に響いた。
「それは私も知りたいところよ、アーリアルのリアド。」
「それに、「みずのなか」の連中だって同じだろ?今ここでそのことについて話すことは何か意味があるのか?」
ご丁寧に乗っているほかの2人は返事をくれた。・・・ということはオレも言葉を返すことになる。
「アジエンスのアテネだよな。オレのこと知ってんだ。」
まずは先に同意をくれた緑のショートヘアの女子に話を振る。
「まあ、噂ぐらいは。あなただってそうじゃないの?」
しっかり者、という感じの気配が漂っている。きっとアジエンスに居たころから頼られる存在だったんだろう。
「ああ、まあ。植物のすごい奴ってことぐらいなら。」
「う〜わ〜。それだけかよ?アジエンスのアテネって言ったらおれたちの年からは考えられないぐらいのコントロールができるって聞いてるけど。どうなんだ?」
「・・・。正直に言ってわからない。どれぐらいが年齢相応なのか、わからないから。」
そういうもんなのかもな。オレもどんだけコントロールできているのかわからないし。それよりも、オレはアジエンスのアテネとの会話に割り込んできた男子の噂なら聞いたことがある。ちょっとつついてみると面白いかもしれないな。・・・暇だし、やってみるか。
「オレな、同じ能力だからこそ言えるけど、お前も爆発的な力を持っているって聞いたぞ。正直にその辺はどうなんだ、ユーラシンのザグレブ。」
「お前が言うか、リアド!知ってんだろ、どうせ。」
まあ、知ってはいる。でもそれじゃあ意味がない。・・・訂正、おもしろくない。
「知ってるけど、認めるのと認めないのは違うんじゃないか?」
くすくす
「アテネ、笑うな!」
「無理無理。私の耳にすら届いてるんだよ?開き直りなよ、ユーラシンのザグレブ。」
ちょっとむくれたザグレブは、その膨れた顔のまま言い放った。
「ああ、わかったよ!認めるよ!おれはユーラシンの森の4分の1を燃やしました!これでいいな!」
ザグレブはそれだけ言うとぷいっと横を向いてしまった。アジエンスのアテネはまだくすくす笑っている。オレはちなみに内心大笑い。ユーラシンのザグレブのむくれ顔・・・めったに見れるもんじゃない。
でもそんな気持ちを悟られないように、オレは・・・窓から外を眺めてみることにした。
「りくち」のやつが「そら」に行くってことがどれだけすごいことなのか、分かってはいるつもりなんだけど。もう後戻りできないようなところで弱気になっちまったみたいだ。うーん、正確にはまだ後戻りできるって知ってるからなおさらなのかもしれないな・・・。でも今オレが「そら」に向かっているという事実に対して、なんだか。
「いまいち実感がない・・・」
『そんなこと言ってないの!これからが大変なんだよ?』
心の声の最後が口から出たらしい。小さな呟きだったけどオレのシャツの胸ポケットに入っていたローラ…オレの妖精、にはちゃんと聞こえていたみたいだ。今まで一応遠慮をして出てこなかったんだろうな。
「そんなこと言ってもさ〜、ローラ。これから本当にどうなるのかわからないことだらけじゃん。」
『それでも行くって決めたのはリアドでしょ。だから頑張りなさい!』
そういわれてしまうとオレには反撃できない。だからしょうがなく同意をしておくことにした。
「わかったよ。」
あまり気持ちは乗っていなかったけど、とりあえずOKは貰えたみたいだ。そうしたら操縦者の人からの放送が入った。
[もうすぐ「そら」の学校に着くぞ。下りる準備をしてくれ。]
「は、あ、なん、だ?」
「酸素、薄っ。」
「体は軽いね。あ、二人とも、ちょっと手伝うよ。」
下りた途端、オレとザグレブは完全に空気の薄さに適応できなかった。正直ここまで薄いのか、と思うほど。これは確かに・・・
「おれ達、炎使いは、「そら」でも、「みずのなか」、でも苦労する、ってのは、身を持って、わかった。」
「うん。」
アテネは自分の能力で植物を出して光合成をして酸素を作っている…みたいだ。背中から何枚か大きな葉っぱが見える。さらにその背中の方に太陽がある。逆光でいまいち表情は読めないけど、なんかアテネがすごい人って感じがする。
「これは確かに、日常生活を送るにも慣れる必要があるよね。一般生たちも入学式の1週間前に来るってのは慣れるため、だね。」
「だな。」
オレ、今、一番へばっている。なんでか、いまいちわからないけど。そんでもって、それが一番悔しかった。
そんな時、オレたちの前を銀の風が通り過ぎた。・・・いや、銀色の髪の毛を持った人だと思うもの、がすごいスピードで横切った。
思わず見とれた。スローモーションで見たいぐらいだ。人だ、ってわかったのは銀色の下にかろうじて足と思われるものが見えたからで。それすら自信がない。たぶん、ってことしかオレには言えなかった。オレ達がゆっくりとしか動けないのにあのスピード、ということは完全に適応しているということで。つまり「そら」の住人なんだろう。
「今のは?」
同じように見とれていたらしいほかの2人にも聞いてみる。
「たぶん、「そら」の、風使い。」
「そうだね。何かを持っていたように見えたけど・・・。」
やっぱり、オレと思っていたことはほとんど同じだったようだ。あんな風に風を作ることができるやつがいるんだな。風使いは空の申し子だから。オレやザグレブのような炎使いが大地の申し子といわれるように。
オレたち3人はその子が飛んでいった方向を見続けた。別に何があるってわけじゃあないんだけど。なんだか不思議な感じの奴だったんだ。男か女か、年寄か若いのか、まったくわからないっていうのに。
「ようこそ、「そら」の学校へ。「りくち」の能力者3名ですね。」
「これから名前を呼びます。手を上げてこたえるように。」
いつの間にか先生(と思われる)人が2人すぐ近くにいた。オレはその時心を決めた。あの銀の髪の奴を探そう、と。
2011.11.10 掲載
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