オレたちが「そら」の学校にたどり着いてから2週間が過ぎた。「みずのなか」の連中ともそれなりに仲良くなったし(「みずのなか」から来たのは5人だ)、今日「そら」の連中が合流して5〜6人のチームに分けられる。どうやらそのチームで生活を共にしていくらしい。この2週間、オレはザグレブと一緒だったから結構仲良くなった。同じ能力持ってるやつは別のチームになることが多いってのが残念だ。
オレ達入学生の能力者は入学式が始まる30分前に野外演習場でチーム分けの発表が行われる。ということで、そこには「りくち」の3人、「みずのなか」の5人と「そら」の4人が初めて全員顔を合わせた。
「それではチーム分けを行います。」
厳かなふりをしている先生の声にローラやザグレブと話していた俺も口を閉じた。
「まずは私の担当チームになります。」
そういって前に出たのは風使いのキャンベラ先生。クリーム色の長い髪を結わえることなく流している。
きっと銀の風のあいつも先生みたいに長い髪を持っているんだ。先生よりも身長はきっと低い。きっと・・・オレより、少し低い。でも、髪の毛は腰ぐらいまであるんだろうな・・・。
最近のオレはことあるごとにあの風の正体を考え続けている。こういっちゃ明け透けだけど、あれだけの情報で、(きっと)髪の長い風使いという事実だけで本人を特定しようとしているんだ。オレだって結構無謀なことをしている自覚はある。少なくともこの学校の生徒であることは確かなんだけど・・・。
「それではまず「みずのなか」の生徒を発表します。まず、リーゲ海のモスクワ。そしてメディアン海のウィーン。」
ざわざわ・・・
名前を呼ばれた2人が先生の前に出る。
「次に「りくち」の生徒を発表します。アジエンスのアテネ。そしてアーリアルのリアド。」
1人残ることになったザグレブにちょっと簡単な挨拶をしてオレとアテネもモスクワとウィーンのところに向かった。
「最後に「そら」の生徒を発表します。まずはサヘル空のパリス。そして雷平空のカイロ。以上6人です。」
同じようにもう一人の先生(確か水使いのオスロ先生)が残りのチームの名前を読み上げていた。だけど、オレはそれどころじゃあなかった。「そら」から合流した1人を見て唖然とした。
サヘル空のパリスは長い銀の髪をポニーテールにしていた。この2週間でさりげなくキャンベラ先生に聞いたんだけど、「そら」でも純粋な銀髪は珍しいみたいだ。そんな中にまさに最大の特徴を持っている子が登場したわけで。・・・身長はオレよりちょっと高い、気がする。でも、たぶん、パリスはオレが探していた子だ!
「・・・って思うんだけど、アテネはどう思う?」
オレは入学式が終わってからアテネにパリスが「銀の風の子」ではないか、と聞いてみた。
「リアド、熱でもある?大丈夫?」
・・・真剣に心配しないでくれ。なんだかオレがいたたまれなくなってくる。
「至って健康だよ!まさかアテネ忘れちゃったのか、あの銀の風!」
「覚えてるよ。でも、なんでそこでいきなりサヘル空のパリスになったのか、根拠を言いなさいよ・・・。そのまま信じろって言われても信じないからね、私。」
やっぱりアテネはしっかり者タイプで、しかもちゃんとまとまった話じゃないと耳を傾けてくれない。・・・思った以上に強敵だ。
「ってことは、オレがちゃんと説明できればいいんだよな!まずは、パリスの髪!まさしくあの銀色だろ、オレ達の目の前を横切ったの!同じ色だし、それに長さも大体同じだろ。少なくとも俺に記憶の中ではそんな気がした。」
ちょっと勢いに乗っていたかもしれないけどオレは無事に最大の特徴を息巻いて伝える。
「それに風使いだってこと!風使いで、髪が長くって、申し分ないだろ?」
ま、オレにしたら些細な理由なんだけど、それも付け加えておく。これでどうだ!
「・・・。リアド、あなたはパリスが飛んでるところを見たことがあるの?」
「え?」
思ってもみなかった言葉が返ってきた。今なんて言った?
「アテネ、今なんて言った?」
気づいたら心の中の質問をそのままアテネにしていた。
「パリスが飛んでるところを見たことがあるの?って聞いたの。だって、たとえ全部の特徴が正しくってもスピードが壊滅的に遅かったらそれは絶対に違う、って言い切れちゃうでしょ?」
「あ・・・。そうか。あ〜〜〜、そうだよな・・・。」
そうだ、アテネの言うとおりだ。オレは今まで一度もパリスが飛んでいるところを見たことがない。・・・もちろん、顔合わせをしてから今までやっと半日ぐらいだから飛ぶような場面がなかったってこともある。それでも俺は落ち込むことを止められなかった。
「オレの早合点だったのかな・・・。見つけた、って思ったんだけどな・・・。」
肩を落として下を向きながらはぁ〜と大きなため息をついたときアテネに肩をたたかれた。ほかにも俺が知っておくべき・・・というか考え直すことが必要なのかな。と、思い始めると余計気分は沈んでいくけどそれでも顔を上げてアテネの顔を見た。
「ねえリアド。私は可能性の1つを言っているだけだから。まだわからないじゃない。あなたがもうあきらめちゃうならそれでもいいけど・・・。」
覚悟を決めていたのにアテネの口から出てきたのは予想していたのとは180度違う種類の言葉だった。
がばっ、と顔を上げる。そしてアテネのことを見た。
「オレ、まだあきらめてないって!まずはパリスに聞く前に飛ぶ速さのことも確認するよ。そうだよな、わからないから頑張ってわかっていけばいいんだよな!」
しっかりと考えて行動するようにってアテネは注意してくれている。それにアテネもきっと答えが知りたいんだ。
「オレ、頑張って調べるよ!」
こうして学校が始まって3週間ぐらいは宿題やほかのことをやりながらパリスのことを調べた。これならきっとすぐに成果が上がる、と思っていたオレだけど、時間がたつにつれてその考えが甘かったことが思い知らされた。
「やっぱり、使用制限がな〜。」
オレはぽつりとつぶやく。
『だよね。こればっかりは罰則規定に入っているしね。』
そのつぶやきを受けてローラも口をそろえた。一般の生徒もたくさんいる中で能力者が生活しているから能力の使用に関しては制限がある。基本的に授業内と広いところ。あとは大人が一緒にいる時。もし破った場合は反省文という比較的軽い罰から食事抜きの重い罰まで幅が広い。まぁ、見つからなければいいわけなんだけど。
そう、見つからなければいいんだ。だからオレもお湯を沸かしたり、ちょっと火が欲しい時は使ってる。・・・ちなみに、火の扱いは6種類の能力のうち一番危険だからオレは多分誰よりも気を付けてる。
話を戻そう。
つまり、オレは(実はアテネも)パリスが飛んでいるところを見たことがない。きっとまだ時間が足りないんだ、ってオレはごまかしてるけど、実際のところどうなんだろう?
そしてそんな風に考え込んだ日から実に1か月がたったとき、ある事件が起こった。
2012.2.4 掲載
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