「なんであれだけで反省文なんだ?」
「モスクワ、言うなよ。能力者なのに能力使ってない“いたずら”で反省文ってこと自体、屈辱だろ?」
「なんでオレも巻き込んだんだよ、モスクワにカイロ!せっかくの休みが台無しだぞ!」
「あ、な、た、た、ち!今の自分たちの状況分かってんの!?監督に駆り出されてる私の身にもなってみなさい!」
「「「ごめんなさい・・・」」」
オレ達、って言ってるけどオレは半ば引きずられていったんだけど、はいたずらをした。まったく能力も関係ないいたずら。主犯はカイロ。モスクワは愉快犯。・・・何度も言うけど、オレはたまたま通りがかりに声をかけてしまったから連れて行かれた。それが見つかり(確か一般同級生のデリーっていう「そら」の女子に見られたんだよな・・・)アテネの監督のもと反省文を書いている。実はウィーンもさっきまでいたけどなんだか呼ばれて出て行った。
それにしても。このいたずら、手は込んでるし時間も労力もかかってると思うんだけどな・・・。
「ところで、なんで鳥小屋のエサなんてすり替えようと思ったんだよ?」
オレは主犯に目的を聞いてみることにした。
「そりゃパリスのとこの小生意気な鳥をいじめるためだろ。」
「「はぁ!?」」
オレとアテネの疑問がハモった。
「まさかパリスの幼馴染に目撃されるとは思わなかったけどな・・・。くそ、カイサの奴、ぜってー一泡吹かせてやる。」
『ちょっとティラ!何があったの!?』
『このカイロ、怖いんだけど!』
カイロの妖精であるティラに詰め寄るローラとリュア。それでもティラはあいまいな顔をしているだけだった。
「カイロ、お前ここに来る前からパリスのこと知ってんの?」
さっきの言葉から知っているんだろうことは予想が付くんだけど、結構知ってるんじゃないかと思い始める。だって、「幼馴染」の存在を知っていたり「パリスの小生意気な鳥」を知っていたり。オレは・・・今知ったよ。パリスの幼馴染もこの学校に居るとか、パリスは鳥を飼っていた、とか。
「知ってる、というか、あいつはともかく有名だからな。」
ふむ、と頷きながら口を開くカイロにちょっと顔を見合わせるオレ、モスクワとアテネ。
「どういうことだよ、それ?オレ達にもわかるように説明してくれよ。」
先を促すとカイロは珍しく迷うようなそぶりを見せた。ティラもあいまいな顔をしている。
「あんまり言いふらすなよ。」
ぽつりとカイロがつぶやいた後に真剣な顔を向けてきたから同じように真剣な顔をして頷く。ちょっとほかの2人を見ると同じように真剣な顔をしていた。
「パリスは、サヘル空で一番の風使いだ。スタミナがないけど、それ以外は大人の風使いでも負けることがあるぐらいだからな。」
それぐらいならオレ、よりはザグレブが言われていた言葉だ。別に珍しくはない。
「中でもパリスの飛行のスピードは本当に早いから「銀の風」なんて呼ばれていたこともある。でも、だからだろうな、小さいころから別格扱いで、普通の子供らしくなくってよ。デリーと、親戚がサヘル空に居るから何かで行く度に顔を合わせていたオレぐらいにしか年相応の反応をしなかった。特に学校に行く前は。」
正直小さいころから知ってるんだ、とかそんなことより「銀の風」って表現にびっくりした。自分で勝手につけた呼び方だったけど、まさか同じ呼び方をしていた人が居るとは思わなかった。それに、この話はますますオレが見た人はパリスだ、って言っているみたいで。わくわくしてきた、って言えばいいのかな。
「それでもあいつは元気だったし、折り合いをつけていくこともできていたんだ。・・・2年前までは。」
オレ達話を聞いている方の空気が固まる。2年前に何があったんだ?
「簡単に言うと、パリスが自殺しようとした。なんでそう思ったのかは知らねぇし、そこまで踏み込んでいい資格はオレにはない。でも昔馴染みが自殺しようとしていた、ってのはきついよな。それからことあるごとにカイサ、あいつの鳥が状況を伝えに来てさ。オレはそれが嫌だったんだ。オレには関係ないよな!って思ってさ。だから仕返しのつもりであのいたずらをした。」
すぱーん!
特に間も入れずに話しきったカイロに、アテネはつかつかと歩み寄り、右手でほっぺたをはたいた。盛大に。思わず顔をしかめてしまうオレ達をよそに、アテネはキッとカイロを見据えた。
「そんなことだからパリスもルルも自分のことを軽んじるんでしょうが!1か月しかまだ一緒にいないけど、それぐらいならわかるよ!なんでそこで支えてあげようとか、話聞いてあげようとかできなかったのかな?カイサは何か、助けになると思ったからカイロのところに行ったんじゃないの!?」
そのアテネの声が涙声に変わってくるとさすがにカイロもバツが悪そうな顔をする。
「今は、カイサがむかつく、ってことしかないから。パリスのことは別に・・・」
そこで口を閉じたカイロを不審に思ってカイロの目線の先にある窓の方を見る。すると、そこに上の方から下の方にすごいスピードで飛んでいる人影があった。その人の髪の毛が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。何よりも目を見張るのが、その色合い。まったく混じりけのない、きれいな銀色で、頭の高い位置で一つにまとめている。
「「パリス!」」
オレは大声で視線の先に居る人物の名前を挙げる。すると同じタイミングでカイロが、ちょっと怖がっている感じの声で名前を言った。
「・・・あれ、パリスか!?」
モスクワの驚きの声にじっとパリスのことを見ていたアテネは、はっと息を飲むとすごい勢いでオレを振りかぶる。
「な、なんだよア「リアド、あの飛び方・・・っ!」
オレはそれだけで何を言いたいのかわかった。この時だけはオレの直感もさえていたみたいで。
「だよな!やっぱりあの「銀の風」はパリスだったんだ!オレ、下に行ってくる!」
それだけ言い置いて、わけがわからずに騒然としているカイロやモスクワを置いて猛ダッシュで部屋を出て行った。
パリスは学校の中庭にある噴水の近くにいた。急いでいたのは何か理由があるのだろう、とは思ったけれど、オレはそんなこと構わずにそのままのスピードでパリスに向かって突進した。
「パリス〜〜〜!!!」
・・・結論から言うとこの時のオレは変だった。ちょっと考えれば女の子が小さくても一応男であるオレとぶつかって何もないはずがない、とか、パリスの腕の中にいたもののこと、とか。全部わからなかったんだ。だから、そのまま突っ込んだ。
「え、リアド!?ちょっとちょっと!止まってよ〜〜〜!」
パリスはオレを見つけると慌てて腕の中に居るモノを守るようにしながら止まるように訴えてくる。けど、非常に残念なことに、オレは階段を駆け下りていたところで。
「え、止ま、止まれね〜〜〜!」
と絶叫しながらパリスに突っ込んだ。
「止まってって―!」
そんなパリスの声が聞こえたときにはオレは風でぶわっと持ち上げられ、がつん!と何かにぶつかった感じがした。星が目の前に舞ったような気がしたと同時に、なんとなくローラの声を聞いたような気がしたけど、オレの意識は沈んでいった。
◇
あの後はなんだか大変だった、らしい。というのも、オレは全身を噴水に叩き付けられていたわけで。全治・・・どれぐらいだったんだ?ってぐらいは病院棟にお世話になった。オレが退院するころにはその噴水を壊した事件は全校生徒に知れ渡っていたんだけど、オレを責めるやつよりパリスを責めるやつの方が多かった。そんな中、カイロからあんなことを聞いちゃったオレとアテネはひそかにパリスを支えよう!って勝手な同盟を結成していた。
銀の風を追いかけてオレの学校生活は始まったけど、ちゃんと追いつけたかな。それともまだだろうか。・・・次は銀の風を捕まえたいな、と思った。・・・捕まえたい?風を捕まえるとか、無理だろ。
「でも、捕まえたいよな。」
ぽつりとつぶやいた言葉は誰にも聞かれることはなかった。オレ自身、なんで捕まえたいって思ったのかは謎だけど、そのうち答えにたどり着けそうな気がする。
ひとまず今は。
「リアド!早く来ないと置いてくよ!」
「おっと!今行く!」
この生活を楽しもう、とそう思う。
2012.9.17 掲載
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