2章:スクールの生活…3



「1時間目は国語、2時間目は理科! お昼食べたら魔法学だからいいけど……」
「よくないよ、魔法学の後は体育」
「今日の最後の時間は適正検査、なのですが」
 お昼のお弁当を囲みながら、この前のように赤黒い空の下に3人は集まっていた。口をついて出てくるのはそれぞれ、昼食後の授業の科目だ。昼食の時間が正午よりも少し早いのは、やはり朝食を食べない生徒のためなのかもしれない。そう夏美は感じた。ポイント制という、とても手間のかかることを行っている半面、昼食の時間を早めている。この学校が抱える、矛盾点の1つではないか、と夏美は脳内で付箋を貼った。
「魔法学は楽しいじゃん? でもちょっと複雑だなぁ」
 春菜はウインナーをほおばりながら腕を組んだ。夏美はその行儀の悪さに乾いた笑いをこぼす。秋菜はポテトサラダを口に入れながらも眉をしかめた。
「何が複雑なのよ?」
 少し不機嫌な声を出す秋菜に、春菜は手をひらひら左右に動かしながら口を必死に動かす。咀嚼していたウインナーをごくり、と飲み込むと、春菜は口を開いた。
「いや、勉強自体は面白いし好きなんだけど、あたしがこれを続けて行ったらどうなるのか、って考えたら微妙だな〜、って」
「あ……魔法は妖精特有の能力ですよね」
 夏美の思い出したかのような言葉に、春菜は頷いた。
「そうそう! 使いこなせば使いこなすほど、妖精に近づいていくんだよ。あたしは元の生活に戻りたいからさ、複雑なんだよね〜」
「そうなんですね」
 夏美は転校してきた日に聞いた話、妖精としての要素が強くなれば強くなるほど人間界に帰りにくくなる事実の説明を思い出しながら頷く。
「私はむしろ、魔法学は極めたいけどね」
 小さく肩をすくめる秋菜に、夏美は小首をかしげた。
「どうしてですか?」
 その問いかけに、秋菜は弁当箱に箸を置いて夏美を見る。目線を動かすことなく、秋菜は口を開いた。
「私が望んでいるのは、私のおばあちゃんがいったいどういう人だったのか知りたい……というか、不思議な人だったから何なのか知りたい、ってことなの。それを手っ取り早く知ることが出来るのは魔法だから「秋菜は必死なんだよね」
 途中にもかかわらず、ばっさりとさえぎった春菜の言葉に秋菜はぶすり、と不機嫌顔になる。
「なんで最後の部分をかっぱらうのよ、春菜」
不機嫌オーラをまき散らす秋菜に、春菜は笑顔で口を開いた。
「だって、秋菜のその話は長くなるし。考えて見なよ、秋菜。今それを話す必要は全然ないじゃん」
 満面の笑顔にうんうんと頷きながら、春菜は口の中にご飯を一口分押し込んだ。
「秋菜さん、大丈夫ですか?」
「……今日の魔法学、見てらっしゃい春菜」
「うへぇ、そんなに怒らないでよ、秋菜ぁ〜」
 まったく収まりそうにない秋菜の怒りに夏美が気を使って声を掛ければ、秋菜から返されたのは魔法学での宣戦布告。春菜は秋菜が魔法学では成績優秀なのを知っているからこそ、半べそをかいた声を出した。
 くすくすと笑いをかみ殺す夏美の声に、一気にその場の雰囲気が脱力する。そして、春菜と秋菜は夏美に向けて首を回した。
「夏美、わざと?」
「なんでしょうか、秋菜さん?」
「夏美、マジありがとう! 救世主だよ!」
「わ、私が何かしましたか?」
 少々嫌味を込めて秋菜が問えば、目を瞬かせて逆に秋菜に問い返す夏美。その様子に春菜は一気に顔をほころばせ、夏美の腕を取ってぶんぶんと上下に振る。その振動にぐらぐらとゆられながらも夏美は質問を返した。
「……夏美は何もしてないわね」
「そうそう! 夏美は何も悪くないから!」
 その様子に完全に毒気を抜かれた秋菜は小さくため息をつきながら夏美には非が無いことを認める。それに春菜は畳み掛けるように台詞を畳み掛けたところで、秋菜は顔を少し伏せた。
「……やっぱり、春菜は魔法学でコテンパンにするわ」
「え?」

 ぼそりとつぶやかれた秋菜の台詞に、春菜は背筋を凍らせた。

「それでは、今日は属性魔法のレベルアップを目指していきましょう」
 美奈子先生の合図で、校庭の片隅にいた生徒たちが中央部分に向かって移動する。そして、同じ属性の者同士で集団を作った。

 秋菜は同じマーキュリーの属性の生徒の元へと歩いていく。春菜はマーズ、夏美は途中で同じクラスの生徒に確認しながらジュピターの属性へと向かった。魔法学は学年でまとまって授業を受けるため、クラスをまたいだ交流を行える数少ない授業だ。美奈子先生以外にも他のクラスの担任が校庭に出て生徒たちに指示を与えていた。
「それでは、妖精たちをより多く呼ぶことが出来た属性に特別点を付与しましょう!」
 美奈子先生の言葉に、彼女が受け持つクラス以外の生徒たちがどよめく。ポイントを得るチャンスだ、と言わんばかりだ。

 一方、ヴィーナスの属性からは嘆き声が聞こえた。それをサタンの属性グループから見た志希は鼻を鳴らす。
 彼らはクラスメイトである、あの少女がいない事を嘆いているのだろう。そんなことを嘆いていないで精いっぱい努力すればいいものを。

 志希がそのような事を考えているうちに、美奈子先生は大きく腕を振り上げ、そのまままっすぐに振り下ろす。それと共に、生徒たちはみな気持ちを引き締めた。
 今回の課題は妖精をより多く呼ぶこと。それは別に、呼べばいいと言うだけではない。呼ぶと共に確認できるように可視化しなければ意味がない。
 まずは呼ぶところからだ、と言わんばかりに皆が手を前に突き出し、何やらぶつぶつと言葉をつぶやきはじめた。
 それと共にそのグループ周辺の雰囲気に変化が生まれる。目に見えないその感覚的な変化は、確実に校庭を覆い始めていた。



2013.3.31 掲載