GWの誕生日大作戦 中



 あのメアド交換についていろいろ繰り広げたGW前日から2日が過ぎた。つまり、今はGW 真っ最中、私は大阪に来ている。通天閣に道頓堀。兄ちゃんは美味しい食べ物に満足そうだ。それはもちろん、ちょうど授業が少ない日(それも休んでも大丈夫な日)がGWに被ったから父さんが兄ちゃんに入学祝いを兼ねて旅行に1泊2日で行こう、って言ったんだから。大阪は兄ちゃんが選んだ。だからこれだけ楽しそうで嬉しそうなんだろう。……どうやら私の入学祝も兼ねているみたい、というのは私の希望であるU○Jに明日行くことになっているからうかがい知れた。それならそれで結構、私は大阪を楽しみます。

「梨花、お好み焼きもう食べないのか?」
「まだ食べるの? 流石にこれだけ食べれば私は十分なんだけど」
「じゃ、貰うな」
「本当に誠人(まこと)はよく食べるな」
「お父さん、自分のことを棚に上げて言わないで。学生の時はたくさん食べていたんだから」
「……私ばあちゃんから聞いたことがあるんだけど、どんぶり飯にカツ2枚とか当たり前だったって」
「へぇ、まじか! 親父も結構食べてたんだな。ってことは、これは親父譲りか!」
「誠人! いいから食べなさい」
「うへぇ、こんなところで怒らなくてもいいだろ、お袋」
「……兄ちゃん、しゃべってないで食べないと冷めるよ」
「梨花は本当に現実的だよなぁ……」

 チャン♪チャンチャラ チャンチャンチャン♪

 家族で和気あいあいとお好み焼きの夕飯を食べていた時に私の携帯から音楽が流れた。一瞬びっくりしたけど、あわてて携帯を取り出す。
「どうしたんだ?」
 これは父さんが「何かあったのか?」って聞いてくる時の口調だ。
「携帯電話はマナーモードにしておきなさいよ……」
 母さんには、きっとこの後宿に戻ってからお小言で注意される。めんどくさいな……。

 その中で私は携帯を開く。するとそこにはメールの到着を知られるアイコンがあった。ひとまず内容を確認するために開いた後、私は固まった。
「ん、梨花? なに固まってんだ?」
 私の残したお好み焼きを食べ終わったらしい兄ちゃんも声をかけてくる。固まったままでいるわけにもいかないので何とか首を動かしてみる。
「メールが来た」
「なに寝ぼけたこと言ってんだ? さっきのその音楽はお前の着メロだろ、ナウシカの」
「そうよ、どうしたの? 梨花、何かあったの?」
「何かまずいことが書いてあるのか?」
「……。違う。内容は大したこと無いんだけど……」

 まさかメールで果たし状みたいな文面を読むことになるとは思わなかった。友達の間なら笑い飛ばせるけど、家族の前だ。これ以上ごまかさない方がいいってことはわかっているんだけど、でもどうしてもごまかしたくなってしまう。とりあえず、これは恥ずかしい。
 とはいえ、そのままいることは出来ないので何とか言葉が出るようにそっと息を吐いた。三者三様の心配をしてくれている家族を安心させるために何とかいうことを考える。そしてとりあえず当たり障りのないことを言うことにした。
「クラスメートからのふざけたメール。ちょっと驚いただけ」
「なんだよ、そんなことかよ」
 拍子抜けしたように兄ちゃんが口をとがらせる。どんなに口をとがらせたとしてもこの事実に変わりはないし、これ以上どうしろ、っていうんだ……。だから、極力真実を話すことにした。
「うん、「PS:大阪はどう?」って最後についてるしね」
「なんて答えるの?」
「あとで返信する。この時間にメールしてくる方が悪い」
「そうだな。誠人、梨花、いいか? そろそろ宿に行くぞ」
「うん」
 父さんの言葉を合図に、私たちはお好み焼き屋さんを後にした。

 何とかメールを取り繕うことができた後、宿で改めてメールを開く。本当に、なんで清水の文面はこうも変なんだろう? 最近の女子とはかけ離れた文面だったから固まったんだ。
「普通メールで拝啓ってつける? 結び言葉ないしさ」
 突っ込みだしたらきりがない。これで文芸部に入ったってこの前言っていたから本当に大丈夫なのか疑いたくなる。
 内容としては急いで伝えたいことがあるから電話してほしい、ということだった。一応こっちの時間のことも考えてくれたんだ、って事はわかる。電話を掛けることは構わないけど、忘れたんだろう、自分が電話に出られる時間を書いていない。
「困った」
 思わずつぶやきが漏れていた。

「何が?」
 びっくりした。母さんがお風呂から上がってきて、部屋に入ってきたところに私のつぶやきを聞かれたらしい。
「さっきのメールに電話してくれって書いてあるんだけど、電話に出られる時間が書いてない」
 要点をまとめて説明をすると母さんもちょっと驚いたように目を見開く。それでも「簡単じゃない」って顔に書いてあるように見えるのは私の気のせいだろうか。
「電話かけちゃいなさい。その内容からすると、きっといつでも電話をとれる状況なのよ」
「そんなもん?」
「何かを頼むとき、自分の準備はできているから連絡を待つ、っていうのが一般的なんじゃないの?」
「……そうかな?」
「かけてみてダメだったら、今度は梨花の方から時間を指定してかけ直してもらえばいいのよ」
「そっか」
「そうよ。私はドライヤーを使ってくるから音が邪魔にならないところで話しなさいね」
 それだけ言うと母さんは髪の毛を乾かすためにお風呂場に再び足を向けた。

 そこまで言われたら何とか電話をするしかない。私はアドレス帳から清水の番号を呼び出して通話ボタンを押した。

 トゥルル……トゥルル……
 電話はあんまり好きじゃない。この、無言で待ってる感じが好きじゃないんだ、きっと。
『はいは〜い! 梨花、電話ありがと!』
 あれ、これ清水の声かな? 物思いに沈んでいた私はとっさに反応できなかった。内心慌てつつも、とりあえず清水であることを確認する。
「もしもし、清水?」
『あ……。もしもし、うん、私。紗弥香』
 ちゃんと本人が出たようなので、私はひとまず、言いたいことを言ってしまうことにした。
「あのメール、何とかならないの?」
『はい? メール? 何かまずった?』
「…………」

 自覚がない。普通の文章なら結構な上手さで書くのによりによってフランクで構わないメールを堅苦しくしているのが清水だ。
『あ〜、梨花。電話で沈黙しないで。とりあえずさ、これを伝えとかないといけないから。いい、聞いてる?』
 いけない、電話だったことを忘れてたわ。私は瞬間的に気を引き締めた。
「うん」
『春菜と浦浜くんの誕生日がついこの間あったんだって!』
 なんだ、そんなこと。私は肩の力がガクッと抜けた感じがした……ような気がした。
「ふうん。おめでとうっていえば済むことじゃないの?」
『冷たいなぁ! 梨花、中学の時友達居た!? って、そんなことじゃなくってさ!』
「なんなの?」
『梨花、明日帰ってくるんでしょ? 私もそうだからもう1日あるじゃん! だからさ、その時誕生日会やりたくって!』
 否定する必要も見えず、とりあえず同意をしておく。実際にやる・やらないはどちらでも構わない。私はどっちにしても参加する気はないし。
「いいんじゃない?」
『梨花、わかってる!? 梨花も来るの! プレゼント準備するの! 時間と場所はまたメールするからプレゼントを2人分、ちゃんと準備しといてね! 』
 清水、今私もやるって言ってた? 私も強制参加……ってこと?
「ちょっと待ってよ、清水。今、私も参加しろって言った?」
『言った!! ちゃんとプレゼント、準備しといてよ!』
「ちょっ、清水、待って!」
 ぷつん

 唐突に電話が切れた。少し清水が焦っていたみたいだから向こうで何かあったのかもしれない。大丈夫かな……。
 私はたった今しがた通話が終わった私の携帯を見つめた。あの切り方を考えるともう一度電話をかけても、つながらない可能性の方が高い。
 どちらにしてもひとまずお土産は買う予定だったから、ちょっといいものを明日選ぼう。ちょうど、私には兄ちゃんという強い味方もいるから浦浜くんのプレゼント選びも困らない……と思いたい。

「母さん」
「何、梨花?」
「明日、プレゼント買えそうなところに忘れずに寄ってね」
「え、どうしたの?」
 母さんには正直に言って協力を仰ぐしかない。最悪、父さんを丸め込んでくれるのは母さんだから。
「友達が最近誕生日だったからお祝いしよう、って他の奴が連絡してきたの」
 手短に説明すると母さんはにこにこ顔になっている。
「何?」
 ちょっと引きながら母さんに聞いてみる。
「別に。ちょっと昔を思い出しただけ。わかったわ、明日は忘れずにプレゼントも準備しましょう!」
 母さんがなんでこんなにはしゃいでいるのかわからないけど、でもこれで明日プレゼントの準備は出来そうで、内心ほっと息をついた。



2011.10.27 掲載
2013.5 一部改稿