1.風族のリト…4



 ドンドンドン……
「父さん」
 オレは家のドアを叩いた。兄さんの言いつけ通り、家に帰ってきて父さんを探す。 村はずれにあるオレの家には家畜小屋とオレたちの住む小屋がある。裏の馬小屋の方にいるわけではないってことはさっき確認して分かったから、家に戻って来てみたんだけど。いないのかなぁ。鍵はかかってるんだ。兄さんに父さんに伝えて連絡しろって言われてるから、それをやらないといけないのに……。
「父さん、どこにいるんだ?」
 森に居るのかもしれない。それじゃあここに伝言を残して……。伝言なんて、高度な事できないよ、オレ!父さん達はたまにやってるから、きっとできるんだと思うけどさ、オレにはできないって。そもそも、やり方知らないし。

 ふわりと風に乗り、オレは風が持ってくる気配を読む。……そ、そんなに難しい事は出来ないけど!父さんを探せないかな、って!そもそも、オレたちが兄さんたちを迎えに行ったって知ってるはずだから、そんなに遠くに行かないと思うんだ。

 風が運んできた気配によると、家の裏手にある森には父さんはいないみたいだった。うーん、ってことは、村に行ってるんだよな?
 オレはそのまま、村へと行く道の上を飛び始めた。その前に兄さんに風の便りを送る。父さんを探していることを、伝えるために。

 オレ達の村の中心には塔と学校がある。道は、そこへとつながる道、みたいな感じであるんだよな。何のための塔なのか、それは分からないけど図書館の役割もしているから、うちの村の名物であると言える、んじゃないかな。
 お店も全部、塔や学校の辺りにあるから、オレは塔を目指して飛ぶ。平べったい建物が多い村だから、なおさらなんだけど、塔って目立つんだよな。
 オレは下の道を歩く人達にも父さんを見なかったか、と尋ねながら飛んだ。
「おじさん、父さん見なかった?」
「お、リト坊。兄貴が帰ってくるんだって?」
「そうなんだけど、父さん見なかった?」
「俺はみてないな〜」
「ありがとな!おばさん、父さん見なかった?」
「見てないねー」
「ありがと!」

 なかなか父さんを見かけた人がいないなぁ。どっか、建物の中に居るのかな?
「あんちゃーん、父さん見なかった?」
「キイスさん?キイスさんならさっき塔の前に居たけど」
「ありがとう!」

 そのうちの一人から父さんがいたらしい場所の聞けたから、オレは急いで等の前の広場を目指して飛ぶ。その途中、トムとすれ違い際に声を掛けた。
「あ、トム」
「リトォ、親父さん見つかったか?」
「え、ギスさんは?」
「おいらも親父の事探してるんだぁ」

 え?
 オレは空中でぴたっと動きを止めた。へへん、これをするのも結構大変なんだぜ?……じゃなくて。

「ギスさんもいないの?」
「親父さんもいないのかぁ?」
 お互いに頷きながらさて、とある場所に目を向けた。2人がそろっていないとなると、きっと村の重役の寄合だ。ギスさんは由緒正しい商人の家系で、えーっとずっと重役の1人だし、オレはよく分からないけど、父さんもそうみたいだし?あと、父さん、塔の広場で見かけたって言われたよな。

「トム、行くぞ」
「言われなくても」
 オレ達は村の中心にある塔に向かって、飛んだ。

 塔に着くと、オレ達はぎぃと扉を開いて中に入る。たくさんの本と一緒にいろんなものが保管されているから塔には受付があって、そこにいるお姉さん(ついこの間まで学校に通ってたお姉さん、だったりするからもちろん、顔見知り)にオレとトムは歩み寄った。
「あら?本とは縁遠い2人組ね」
「ミリィ姉さん、今日は本が目的じゃないんだ」
「親父とキイスさん、上に来てない?急用なんだぁ」
 トムの言葉にちら、っとボードに目を走らせる姉さん。そして、ぴ、っと一つの書きこみの事を指した。
「来ているみたいね。最近の行商についてお話してるみたい。そろそろ終わるはずだけど……」
「姉さん、何階?」
「どの部屋?」
 オレもトムも焦ってるから、すぐに場所を聞いて駆けつけようと聞いたらさ。姉さん、ずいって体をカウンター越しに乗り出して来てさ……怖いって。
「あなたたち。あと少しで終わるから待ちなさ「構わないよミリィ、ちょうど終ったところだ」

 オレ達が少しぎょっとした感じで後ろに一歩下がったら、父さんとギスさんが連れだって階段から降りてきた。その後ろには革製品を作って大きい街に持って行って売ってるおっちゃんとかもいる。そうか、本当に話をしてたんだ。
「父さん」
「親父」
「「崇高なる存在を口にする人が来た」」

 オレとトムが開口一番で口をそろえると、その場の空気がさっと冷えた気がする。本当に、オレの村は崇高な存在が嫌いなんだよな。オレは正直、その存在がいるのかどうかすら分からないから毛嫌いする理由が分からなくて首をかしげるような性質だけど。大人の方がそうなるから、何か意味とか秘密とかあるのかな?

 オレ達の言葉を聞いた人たちがざわつく前に、ギスさんが声を張り上げた。
「皆はそのまま。この件は我ら2人にあずからせていただきたい」
「俺からもお願いします。この子らが言っている訳ですし」
 えっと、少し太めのギスさんと細い父さんがそろって頭をさげるとそれに頷く塔にいるみんな。オレとトムはやっぱり父さんたちはすごいなーと感心するばかりだ。……オレも、そのうち、何を言っているのか分かるようになるのかなー。なんで父さん達は、こうもしっかりしてるのかな……。
「それで、2人とも」
「ここじゃあ聞くに聞けない。一先ず外に出るぞ」

 トムとオレは頷いて先程入ってきた塔を外に出る。その後に父さんとギスさんが続いてきた。塔の外にある小さな広場に在るベンチに腰かけて、父さんとギスさんは聞く体勢だ。
 顔を見合わせていたオレとトムは、オレが口火を切ることになった。
「兄さんが、1人の同期の人を連れてきたんだ」
「ああ、それは聞いている。1人連れて行くから寝床を追加しといてくれ、と」
 なんだよ、父さん知ってるんじゃん、ってオレ思ったけど。オレは悪くないから。
「それで、その人……ジャンさんが崇高なる存在の事を口にしてなぁ」
「なんでそんな流れになったのだ?」
 ギスさんの言葉にオレはトムと顔を見合わせた。えーっと、確か。
「……オレたちが学校は午前中だけって話してて」
「コル兄さんに何かを言った後に言ってたんだよな」
「オレ、その流れは分かってないんだ」
「おいらも聞こえてなかった」

 しまった、オレたちじゃなくて一番聞いてたのは。お互いに言い合って分かったから顔が固まる、気がする。あっちゃー。つまりこれってもしかしなくても。オレ達、来た意味ないよな?
「シャムなら聞こえてたかもしれないなぁ」
「オレもそう思った」
 オレとトムがそう言うと、父さんはうん、って頷きながら立ち上がった。
「ギス殿、これはどうやら俺預かりの案件のようだ」
「承知した。何かあれば、力添えしようぞ」
「かたじけない。……よし、リト。行くぞ」
「う、うん」
 立ち上がってギスさんに父さん預かり?えっと、父さんが解決しますって事かな?を伝えてから歩き出す。オレは慌てて後を追いながら、トムの方を向いた。
「じゃな、トム」
「何かあったら連絡しろよぉ」
 オレはそれに頷きながら、父さんの後を追って塔の前の広場の外に向かった。

 父さんは広場の外に出ると、さらさら、っと風便(カゼノタヨリ)を作って送った。
「今、コルトにシャムを俺の元に送るように伝えた」
「うん」
「お前はこれからコルトに合流して、そのジャンとか言う人を連れてきなさい」
「家に?」
 父さん、これから家に帰るんだよな?って確認をしながら聞けば、頷かれた。
「ああ。騎馬隊の人間なんだろう?」
「そうだよ。かっこいい馬にまたがってた」
「それなら、それを御してあげなさい」
 オレはそれに頷くとふわりと風に乗る。
「じゃあ、父さん。ちょっと行ってくる!」

 そう言うと、オレはまた、風に乗って兄さんとシャムの所……まあ、実際にはシャムとはすれ違う事になると思うんだけど、に向かって全速力で、飛んだ。



2014.9.28 掲載