1章:「そら」の学校…4



私はまずかばんの中から着替えを取り出すと、自分のベッドの下にかばんを入れて着替え始めた。ついでに教科書や着替えなども小さな備え付けのたんすや本棚に片付け始めた。別に片付けようと思って片付けてるわけじゃない。どちらかというと、むしゃくしゃしてるから手を動かしてる、という方に近いかも。
『ねぇ、パリス、何イライラしてるの?』
「むしゃくしゃしてるから。」
ルルの的確な質問にもそっけなく返す。
『・・・それさ、答えになってないよね。私は理由を知りたいんですけど、パリスさん。』
ずいっと小さい顔をめいっぱいしかめて私の前にホバリングをするルル。あまり怒っても怖いという印象を受けない。正直な感想だ。でも、このまま答えないでいる方が後々のフォローを期待できないので口を開く。
「迷惑かけた自覚があるからちょっとこのどうしようもない私をどうしてくれようかと思って・・・。」
『わかったよ、パリス。でも、お願いだから本当に自分のことどうにかしちゃわないでね。私が悲しむだけじゃないから。』
はぁ、と大げさなしぐさでルルが肩をすくめながらため息をついた。
「へ?・・・う、うん?」
別に本気で自分をどうにかしようとまでは思っていなかった私は思わず間抜けな返事をした。確かに自分にあきれ返ってどうしようもないな・・・と思ったことは事実だけど、思っただけでそれを実行することはない。普通なら。
だけど、私はちょっとだけルルの言葉がうれしかった。もっと小さい時、それこそ本当に自分を本気でどうにかしちゃいそうになったことがあったから。もちろん、ルルはその時も私と一緒にいたし、私を必死で止めた親友も今この学校にいる。
2人の目の黒いうちはそんなことできる気がしない。その頃の私は確かそんなことを思っていた。
今は人並みにいろいろわかるようになったと思うし、今さらだと思ってしまうんだけど。それでも心配してくれたのが直に伝わってきたからそれでいいや、って思えた。

荷物の整理で小1時間たった頃、アテネとウィーンが部屋に入ってきた。
『さて、始業式に出席しないと・・・。』
「あぁ、忘れてた・・・。」
と言うのはラム、そして私。そのときはじめて私はサイドボードの上のリボンに気がついた。
『今年は黄色なの?』
ルルが私の肩からサイドボードに飛び立ちながら聞いた。
「そうみたいだね・・・。」
そう言いながら私は自分の銀髪を束ねていた白いリボンをはずし、机のうえにあった黄色いリボンで髪を結わきなおした。
「2年生は黄色なのか。覚えてなかったなぁ。」
アテネも苦笑しながら自分の頭にカチューシャ代わりとしてリボンをつける。
『わぁ、アテネの緑に黄色って似合うねぇ〜。』
うっとりとリュアが言う。
「黄色ってどんな色でも似合うしね。」
はにかみながら答えるアテネ。
「でも、水色に黄色はちょっときつい。ついでに制服は白ベースだし・・・。いくら学年カラーだから身につけないといけないとはいえ・・・。」
というのはウィーン。でも、私から見れば、二人とも似合っていると思う。
『そういう言葉はちゃんと声に出そうよ、パリス。』
「え?」
『なんでもない。』
ルルがちょっとため息をつきながら小声で何かを言った。聞き取れなかったから聞き直したんだけど、はぐらかされちゃった。・・・なんだったんだろう?

そんな時、コンコンと扉がノックされた。
「はい?」
一番扉の近くにいるウィーンが尋ねる。
「準備できたか?もうそろそろ行かないと場所が取れなくなるぞ。」
カイロの質問に私たちは扉を開くことで答えた。もちろん、みんな制服の上着を忘れずに持って部屋を出て行く。灰色のブレザーのような上着を着て、私たちは準備万端だった。
女子部屋を出ると男子勢はみんな黄色のバンダナを思い思いにつけていた。カイロは頭に、モスクワは首に、そしてリアドは右の手首に巻きつけていた。もちろん、服装もさっきまでのポロシャツとズボンの上に私たちの上着と同じ色のブレザーを着ている。
「あ、モスクワ。バンダナ曲がってるよ?」
アテネが声をかけるとあわてて整えようとするモスクワ。しかし・・・
「あぁ、これ以上まっすぐにならねぇ。」
と言い出す始末。
『まったく、モスクワは不器用なんだから。』
はぁとため息をつきながらキイが結びなおす。
「わ〜るかったな、不器用で。」
むすっと言うモスクワを片手で促しながら、カイロがドアの外に出た。
「始業式に行くぞ。」



2011.8.17 掲載