始業式の会場である体育館は相変わらず込み合っている。毎年1年生だけはまだこの「そら」の環境に完全に慣れ切ってない、他の世界の生徒のために3日前から集まる。去年は野外練習場で授業中だったため、実際始業式に出席するのは初めてだ。
「へぇ、こんなふうになってたんだね。」
思わず、といった感じでアテネがこぼす。
『そうだね。・・・ていうか、混んでるね〜。』
リュアがきょろきょろと周囲を見回しながら周囲の状況を確認している。
『なんか同じ色が固まっているみたいだね。』
結論が出たようだ。学年ごとに固まっているようだったので私たちもほかの2年生のもとへ急ぐ。その時、他学年の前を通り過ぎることになったのだが・・・
[ヤダ、お騒がせチームの子達じゃない。]
[あれで去年、1年生のトップの成績とか、本当にいい迷惑!]
[かわいそうよね、ほかの一般の1年生たち。努力してもダメってことじゃない。]
[これで品行方正だったらまだよかったのに。]
・・・と相変わらず陰口がお好きなようです。もはや慣れてしまっている私たちは素知らぬ顔でその横を通り過ぎて行く。私たちが何かをしたわけじゃない。この伝説を覆すほどの1年生を期待したいけど・・・残念ながらきっと出現しないだろうって思う。
一応自分たちの名誉のために言っておくけど、私たちは別にふざけようとしてふざけているわけじゃない。この「そら」にある学校は3世界すべての子供たちの中で1番優秀な子供たちが集められている。もともと能力者は生まれる確率が低いし、この学校には妖精を連れている能力者しか通うことができない。だからこの学校に通っている能力者たちは総じて半端なく強い。・・・いろんな意味で。
だから私たちは常に自分たちの能力の暴走と向き合わないといけないのだ。ほかの一般生たちが何を思っていても、それが曲げられない事実。リアドが1番能力のコントロールが下手だ、と言ってはいたけど、私もあの過程を通過している。それは私たち6人の中で一番のコントロールを有するアテネにしてもきっとそう。もっと言うならば、ここで教えてくれている能力者の先生たちもそう。私は感情的にさえならなければコントロールに問題はないけど、持続性では全然ほかのみんなにかなわないのが現実だと思っている。他のみんなに言わせると、私は能力の使い方がユニークすぎる・・・らしい。
私たちは私たちなりにものすごくシビアな生活を営んでいる。課題もほかの一般生よりも断然多いし、一般生たちが休んでいるときに授業、なんて普通にある。正直そのあたりは認めてもらいたいとは思っているんだけど、現実はどうしてなかなかうまくいってくれないみたい。
そもそも能力者ってだけで向こうは陰口をたたいてくるから、どうしようもない。私たちが耐えればいい・・・のかな。改めて、なんか理不尽だ。
「こんにちは、キャンベラ先生。」
いつの間にかウィーンが先生を見つけて挨拶する。
「先生、お元気でしたか?休みはいかがお過ごしで?」
モスクワがいつもの調子で話しかける。本当にムードメーカーというか、あっけからんとしている。
「幸い大した怪我もなく過ごせました。今年の「そら」の夏は大きな嵐もなく過ごせましたよ。・・・ほら、早く席に着きなさい。」
私たちはおとなしく席に着いた。キャンベラ先生は私たち、能力者の担当で彼女自身も「風」の能力を持っている。所詮、私にとっては頭が上がらない先生だ。
「おう、そろったな、問題児たち。」
「問題児たちって・・・。それはないですよ、ロンドン先生。」
ピシリと返すアテネ。ロンドン先生は教科担当。去年から持ち上がりで、一般生徒と私たちのような能力者たちを分け隔てなく接してくれる、数少ない先生でもある。
「ん〜、リアドにカイロは確実に問題児だろ?委員長タイプであるアテネと姉御肌なウィーンを外しても、良くも悪くも乗りが良すぎるモスクワに頭に血が上ると暴走する確率ナンバー1なパリスがいて問題児たちじゃないって?」
「・・・。反論できません。でもなんで私が暴走率ナンバー1?」
じろり、とアテネににらまれる。その目線によると、反論するなってことか。
ごめんよアテネ、私にリアド以外のセリフを聞き流すというスキルは存在していないんだ。
「ん〜、自分の胸に手を当てて聞いてみろ。」
・・・・・・・・・。適当すぎるっしょ、先生。
私が完全に脱力してイスからずり落ちそうになるのをカイロが支えてくれる。そんなカイロの腕を軽くたたくことで大丈夫の意を伝えた私はそこで体育館の照明が落ちるのを感じた。
「カイロ、放して。」
小さく頼む私にカイロはなぜかそのまま放さない。
それと同時に私はなぜか斜め後ろの気温が上昇したような気がした。それになんかきな臭くなってきたような。
「・・・・・・・・・。カイロ?」
ちょっと怒気を混ぜて発した言葉には手を放した。
「ちょっとリアドをからかっただけだからさ、そんなに怒るなよ。」
にやっと笑いながら簡単に手が拝むような形をとる。とりあえず、これだけは言っておかないと腹の虫が収まらない。
「リアドをからかうのに私をダシにするな。」
・・・ロンドン先生、私はカイロが問題児であるという事実に関しては今激しく同意します!
始業式は滞りなく進行した。・・・私から言わせてもらえば、始業式の進行を滞らせるほうが至難の業だと思う。その中でもお約束である校長の話はもちろん長くて退屈だった。私は何とか起きてたけど、男子勢のうち覚醒していたのはカイロぐらいじゃないかな?リアドは即アウトしてて、モスクワも明らかに舟をこいでいる感じがあった。ちなみに、私が寝なかったのは意地。絶対カイロにバカにされるから。それだけは自分のプライドが許さない。
始業式の後は簡単なホームルームがあるだけで一般生たちの授業は明日から、ということだけど私たちは違う。能力者の定めとしてより多くの困難を乗り越えなければならない、ということらしい。能力者として生まれてしまった時点で困難に直面している、という認識はないのかな・・・。
ホームルームもそこそこに、私たちは野外演習場へと場所を移動した。
「これから久しぶりの模擬戦だな。」
余裕と顔に書いてあるモスクワを見てウィーンが頭を手で覆う。
「余裕綽々としててもいいけど、負けないでよ。かっこ悪いから。」
「余裕シャク・・・なんだって?」
余裕綽々がわからなかったモスクワに改めてウィーンが頭を抱えたのは言うまでもなかった。
2011.9.19 掲載
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