4章:体育祭と課外授業と…4



 静かな朝。ぱっちり目が覚めた朝。……そして!
 ついにやってきました、課外授業!空も綺麗に晴れて絶好の日だよね!
 珍しく、目覚まし時計よりも早く(時計を見て、びっくり!目覚しが鳴る1時間も前だったよ!)目が覚めた私は、ベッドの上でぐーっと伸びをした。そのまま、ばさっと布団を跳ね除けて、窓の外の天気を確認する。窓の外には昇ったばかりの太陽と青い空、それと白い雲。うん、雲工場はきっと大忙しだろうな!

 そんなことを考えながらちらりと部屋の他の二人を見る。窓に寄り掛かった時に、カチリ、って鍵が当たる音がした。一瞬、起きちゃうかな!?って思ったけど、全然そんな様子は見えない。よかった。
 ルルがふよふよ、寝ぼけてる飛び方で私の所にやってくる。そのまま、まだ結ってない長い髪の中に埋まって、丸くなった、みたい。……って。
「ルル!ちょっと、起きなよ」
 小さい声で言うと、もぞもぞ動くだけ動いて、ルルはまた動かなくなった。こりゃあダメだ、ルルに起きるつもりはない。みたいだから、私はまた体を回転させて外を向いた。なんだか、ワクワク以外の不思議なザワザワもあって、私はちょっとだけ、気になっちゃったんだ。だから、何時もなら二度寝とかしてもおかしくない時間なんだけど、そのまま窓の外を見てた。

 ザワザワ、なんていうか、うん。落ち着かないんだよね。空の様子は風を感じて見ないとはっきりと分からないけど、とりあえずここで見てるだけなら何も心配なさそうなのに。嵐が近づいてきてるわけでも、急に曇りになるわけでもないのに。
 なんだろう……何かあるのかな?その、予感なのかな?それとも、気のせい?ちょっといつもと違う事をするから、そのせい?そういう事なのかな?窓の外には空の見慣れた風景と、学校の校舎が見えるんだけど。それだけなのに、なんかザワザワは消えてくれない。だから、そのまま、窓の外を見てたの。

「で、何?そのまま私が起きるまで、こうしてたの?」
「うん。ザワザワが何なのか、分からないかなーって思って」
 だって、すんごく気になるじゃん。気になっちゃって、二度寝できないぐらいには。
「ふうん。それで?何か分かったの?」
「なーんにも」
 そうなんだよねー、何にも思いつかなくて、何でなのか、本当に分からなかったから。
「そ。じゃとりあえず行く準備したら?アテネももうすぐ起きるでしょ」
「そうだね、うん。着替える!」

 ウィーンが起きてきて、私が窓際で外を見てるのに気が付いて。一緒に窓の外を眺めながらいい天気だね、ってちょっと話した後に着替えろって言われた。そりゃそうだよね、ウィーンが起きてきたってことはそろそろアテネも起きるし、これから課外授業の準備して出かけるんだから。
 だから、私はすぐに窓に背を向けてクローゼットの所に向かったんだけど……ウィーンはそのままちょっと窓の外を見てたんだ。別に雲の流れとかを見てる……とは思えなかったんだけど。ちょっと不思議、かな。ウィーンは私みたいにグルグル考えて止まっちゃうとか、そういう感じじゃないし。いつも、まっすぐでさ、それが間違ってることも少ない、そんなイメージなんだけど。ちょっと着替えを持ったまま、止まっちゃった。

「……そのザワザワ、私も少しあるかもしれない」
「え、なに?」
 窓に向かってるウィーンが何か言った。……気がしたんだけど。小さい声だったから聞こえなくって。だから確認したら。
「よく晴れてるわね、って言ったの。今日ばかりはトラブル引き起こさないでよ?」
「引き起こしたくて引き起こしてるんじゃないよ!」
「でもそうは見えないのよね……」
 ふぅ、って肩をすくめながら言われちゃった。ホントに、私は何かやりたくてやってるんじゃなくて、えーっと、なっちゃうの!なんていうんだっけ、こういうの……後でアテネに聞いておこう。
 私はそのまま着替える事にした。全部に取り合う必要ないんだって、教えてくれたのはウィーンだからね!私は、悪くないからね!

「忘れ物無いよね?」
「無いよ〜。昨日準備したじゃん」
「雲工場か〜、私始めて!」
「俺も俺も!」

 こうやって2年生が全員集まると賑やかだねぇ。聞こえてくる会話も、きっと他の世界の出身者達だろうなあ……。だって、私の周りでも、モスクワとかウィーンが興味津々なんだよ。私やカイロは知ってるからそれほどじゃ無いし、アテネとリアドに至っては怖いみたい。そういえば、そらの住民はこの高さが普通だし、落ちても他の雲に引っかかったり自分で風を掴むから落ちるって考えないんだよね。……そっか、りくちは下が硬いから怪我するかもしれないのか!それじゃあ大変だよね……。

「みんなすげーよな」
「あ、うん。カイロもそんなじゃ無いでしょ?」
 ちょっとびっくりして集まった2年生を眺めてたら、いつの間にかカイロが隣にいた。い、いきなり現れないでよ、びっくりするじゃん。……もちろん、そんな事出さないけどね!
「当たり前だろ。そもそも、うちの近くの雲工場だぞ?小さい頃からしょっちゅう行ってる」
「だよねー。雷平空の雷の力を元に、機械動かしてるんだっけ?」
「すんげえエネルギーが必要だからな。そのためにも雷平空や風見空とかが適してる……ってお前な。知ってるだろうが」
「知ってるよ、もちろん!」
「胸張る所じゃ寝ないからな、そこ」

 なんか、最後にさらっと失礼な事言わなかった、カイロ?ねえ言ったよね?知ってることを知ってると言って、何が悪いのさ!
「そっか、パリスもカイロも、前から知ってたのね」
「ん?ああ」
「アテネ、雲工場の事?」
「そうそう」

 わいわいお喋りしているみんなからちょっとだけ外れたところにいたら、アテネがやってきた。なんか、ちょっと顔色悪くない?
「アテネ、大丈夫?」
「みんなが行くところなんだから、大丈夫」
「?へ?」
「みんなが行くところだからこそ、重量オーバーもあり得るだろ」
「そんなこと、あっちゃいけないでしょ、何言ってるのよカイロ」
「必死だな、お前」
 なんでアテネが青い顔してるのか、重量オーバーの事気にしてるのか、それが全く分かんないけど……。というか、話が全然分かんない……。重量オーバーって、そもそも、雲工場ってゆー大きな建物があるから、それがもう1個ぐらいないとならないよね……?
 ん?それとも、見学用のトロッコの方かな?あれは確かにオーバーしたら大変そうだなぁ。でも、オーバーするほど詰め込まないでしょ、流石に……?

「パリスー!戻っておいで!」
 肩をポン、ってされながら耳元でウィーンの声が聞こえた。……あ。
「ご、ごめん」
「まあ、いいけどね。あれはカイロがアテネの怖がることをもっと怖くしようとしてるだけだから」
 なんだって!?それじゃあ、アテネはいじめられてるってこと !?
「うそ、ほんと?!」
「本当よ。だから、あのカイロは……「カイ「ちょっと待ちなさい」
 ぐいって襟首捕まれた―。うわーん、ウィーン、背が高いからって、それやめてよー。ぎゅって閉まるじゃんかー。
「ぐへぇ」
「ああ、ごめんごめん。でも、ちょっと待ちなさい」
「げほげほ……なんで?」
 もう、何で止めるのさ!って気持ちを込めて見上げたら、ウィーンは指差した。
「ほら、あれ」

 指の先を見ると……うん。流れる長いクリーム色の髪の毛を持った、背の高い先生……キャンベラ先生が。いる。
「ウィーン、あれは」
「ま、そうよね。あれだけ大きな声で言ってれば他の生徒たちにも聞こえるでしょ?まあ、私達には関係ないけど」
「そ、そうだね……」
 集合場所には、キャンベラ先生の怒鳴り声が響いて、ああ、なんだかいつも通りだな、って思ったことはウィーンにも言わないでおこう。なんか、今度は私が怒られそうだから、さ。



2014.4.14 掲載