今、チームごとに工場に到着したところ!これから一旦集まって、工場の人にお話聞いて。それから最終的にえーっと……チームごとに集まってお昼食べるんだっけ?確かそんな感じのはず。移動用の飛行船から降りながら、みんな工場を見上げた。
「ここが雲工場ねー」
「はー、いろんな部品?が出てるなー」
ウィーンとモスクワの言葉に、うんうん、って頷く私。……いやー、私は知ってるんだけどね、雲工場。「そら」の住人なら、子供のころに来るから。……ああ、でも、雷平空の雲工場……「そら」最大級の雲工場に来たのは、私も始めて、かも。
そんな私たちの後ろでアテネがまだ青い顔してて、リアドは興味津々に作り出される雲眺めてて。カイロは……あれ、カイロは?
「ウィーン、カイロは?」
きょろきょろ見回しながら声を掛ければウィーンも周りを見始めてくれた。
これからみんなで集まるから、離れちゃうとまずいんじゃなかったかな……?だから、他のチームもみんなここで待ってるんじゃないの?
「あんのバカ、本当にすぐどこかで何かやらかすんだから」
ウィーンがぶつぶつ言いながらも探し始める。私も空から探すかな……?ついでにモスクワやリアド、アテネも探してよー、って思ったんだけど、モスクワはリアドを呼んでなにか見つけたのか話し込んでる。……つまり、探す気はない、んだね。しょうがないから、私は上から探そう。
私はふわっと風に乗った。
「あ、パリス!」
アテネも探し始めてた中で慌てて呼び止められる。私はその場で止まって下を向いた。
「なにー、アテネ?」
「時間だけは忘れないで!ここに全員集合するまであと15分だからね!」
「うん、分かってる〜!」
腕時計を確認しながら、私は頷く。そのままふぅわ、って空に飛んだ。風が雷の気配に溢れてる。……って、それはそうだよ、ここ雷平空だもん。その雷の気配の中から、カイロを見つけるだ……って、難易度高ーい!高いよ、難しすぎるよ!でもがんばって見つけないと、みんなでペナルティじゃないかな!?が、頑張ろ……。
周囲から風を集める。風によって運ばれてくるいろいろな気配の中に見知った気配が無いか、探す。ここには無い。じゃあ次は反対。風を集める。探す。違う。じゃあ次は。
風の能力者が出来る事なんだけど、実際にやってみると結構難しいんだよ……ね。そんな時、ひとつ、見知った気配を見つけた。
「みっつけたーー!カイローーーー!」
びゅん、と一気にその場所に向かって飛んでダイブする私。ルル?もちろん、ちゃんとしがみついてるよ!
「のぉわ」
「まったーーく!君、どこに行ってたのさ、みんな探してるよ、そんでもって、もうすぐ先生の点呼だよ?」
がっしりとカイロの肩を掴んで止まったら、なんか変な声出されたんだけど。……こんなところで気を抜いてるカイロとからしくないなぁ、て思ったりもするけど……まあ、いいか。
「いや、こっちに来たこと無いなと思って歩いてた」
「歩いてたのは分かるよ」
私みたいに風が操れるならそれに乗ってきたのかもしれないけどさ!君の場合はそうじゃないだろ。
「時間忘れてた」
「君が!?わざとでしょ!」
それぐらい分かるよ、流石に私でも分かるよ!
「ちっ、ばれたか」
「ばれるよ!」
って思いっきり言ってたら。……気が付いた。
「……時間やべぇな」
「君の!せいでしょ!?」
そう言いながら、私は風を作り出だして、そのまま風に乗った。それでしょうがないから手を差し出す。それに顔をしかめながらもカイロも手を握り返した。こういうのは理解が早くて助かるなー。
「時間が無いから帰るよ」
「へいへい」
私は、カイロの事も風で持ち上げながら間に合うといいな、って考えてた。
◇
「雲工場、おっもしれーな!」
「こんなところだったなんてね〜」
「あれでこの雲、出来たんだろ?人が乗っても壊れない雲を最初に造ったのは神様って言われてるけどさ……すげーよな、どっちにしても」
お弁当を囲みながら楽しそうに話すみんな。私ももちろん、その輪の中で笑ってる。でも、ちょーっとだけ気になる事があるんだよね。
「カイロ、お弁当の前はどこに居たの?」
「……お前、今日めちゃくちゃ冴えてるな」
「そ、そう?」
なんかよく分かんないけど褒められた!ってにかっとしながら隣にいるアテネの方を向いたら、渋い顔が。
「パリス、それは褒められてないから」
「え、うそ!」
「普段気が付かない事まで気が付いてるな、ってことだから」
うそー!アテネが言ったことに隠しきれない動揺!え、どういうことなの、それって普段私が全然気が付いてないみたいじゃない!
「アテネ、ばらすなよ」
「あなたは!そうやってまたパリスをからかうんだから!」
……アテネ、何でもいいけどお箸突きつけちゃったらいけないんじゃなかったっけ?そのマナーはどの世界でもマナー違反なんだね、って話してたよね?
「まあ、気にするな」
「気にするでしょう、普通」
こくこくと頷きながらアテネに同意したら……カイロがなんか、怒った?でも気にしない、だってカイロだし。ううん、カイロじゃなくても私に関係のないところで怒ってるなら、別に私は止めないかなー。
「どこって、弁当の後の自由行動で見たいところをな、見当つけてた」
「……あなたが用意周到に?」
「カイロが見たいところって面白くなさそう……」
「お前らな」
それぞれ、思い思いにコメントしたらカイロが面白い顔で見てくる。ねえ、私の普段の気持ち、わかる?わかるかな?私、普段結構みんなにズタボロに言われてるんだよ〜!!
「でも、見当つけてくれたならかなり助かるわ」
「そりゃどうも」
……私だけかな、カイロの笑顔がちょーっと怖く感じたの。なんか、またいたずら仕掛けようとしてるの……かな?アテネは気が付いてないし、他の3人は別の事話してるし。うーん、私の勘違いならいいんだけどなぁ……。
◇
お弁当の後の自由時間。何だか男子組がお弁当さっさと食べ終わらせて一足先にカイロが見つけた場所に向かったみたいなんだけど……大丈夫かな?
「ちょっとカイロ、何かたくらんでないでしょうね?」
ウィーンがカイロに詰め寄る。私たちを呼びに来たカイロはちょっとにやって笑いながら……なんだけど……。
「見てのお楽しみな!」
カイロがこういうってところにちょっと不安になったのは、私だけじゃないみたい。聞いたはずのウィーンが一番顔ゆがめてた……。
んだけど。
「ここは……?」
「あーここは品質が基準に届かなかった雲の投棄場……あのフェンスが見えるだろ?あれより先は行ったらいけないんだと」
「へー、良く知ってたね」
私は知らなかったよ、って思いを込めて聞いてみたら。
「パリスに見つけられた時、あの山が見えてな。職員の人に聞いたら、投棄してるんだ、って言われたから……ちょっとな、許可取り付けてきた」
「許可?」
「何の?」
「何の話?」
アテネとウィーンも話してたところに寄ってきてリアドはモスクワとカイロが指差した山の近くにいる。カイロがパチ、って雷を発生させた。
「モスクワ、リアド、ちょっと離れろ」
「おーう」
「分かった」
モスクワとリアドが私たちの方に来たところで、カイロはバチバチ!って雷を雲の山に向かって放った。
ぱちぱち爆ぜながら、花火みたいに広がっていくそれ。きれい。って、素直に思ったんだ。
はぁ……ってため息つきながら眺めるみんな。何ていうか、言葉にならないって感じかも。
「カイロ……あんた、良く思いついたわね」
「昔、従姉に見せられてさ。一回やってみたかったんだ」
そう言いながら最後、って感じで一番大きな雷を、ばちばちばちぃ!って放った。放った後、くいっと私たちを手招きしながらちょっと前に進むカイロ。その後ろについて行くと、視界いっぱいに広がる火花と花火の踊りに、心を、奪われた。
カイロ、たまにはいい事するじゃん!って思ったんだ。
けど。
「え?」
足元の、雲が。音も何の予兆も無く。
……消えた。
「「「「「「うわああああああああああああああああ」」」」」
「あ、あ、み、みんなぁぁぁ!」
そらで風に身を任せながら、みんなが、落ちるのが……見えた。
2014.7.13 掲載
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